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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第5章】 学園動乱編 ~黒きハイエナと勘違いの騎士団~

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第61話:騎士団、出動!


昼休み。

防衛高校の教室は、生徒たちの賑やかな声で満ちていた。

その一角、窓際の席で、佐藤ミカ、鈴木アヤ、田中ユキの三人は、スマホを片手に深刻な顔つきで唸っていた。彼女たちのスマホの画面には、学内限定の匿名掲示板が表示されている。

「……来たよ、やっぱり」

ミカが、悔しそうに唇を噛み締める。

画面には、たった今立てられたばかりのスレッドが、新着として表示されていた。


【緊急】特待生アリアの不正入学疑惑について語るスレ【拡散希望】


「うわっ、悪質……!」

アヤが、思わず眉をひそめる。

スレッドの最初の書き込みには、『関係者から聞いた話』として、僕の入学試験の結果がいかに異常であったか、そして、霧島校長との間に何らかの『特別な関係』があるのではないか、といった、悪意に満ちた憶測が並べ立てられていた。


「どうする、ミカ? このままじゃ、あっという間に学内中に広まっちゃうよ」

ユキが、心配そうにミカの顔を見る。

黒木派の生徒たちが、次の手にネットを使った情報操作を選んだのだ。物理的な嫌がらせが通用しないと見るや、今度は人の心を蝕む、陰湿な毒を撒き散らし始めた。


ミカは、スマホをぎゅっと握りしめると、顔を上げた。その瞳には、静かな闘志の炎が宿っていた。

「……大丈夫。私たちの出番だよ。『銀の百合騎士団』、初出動!」

「「うん!」」

アヤとユキも、力強く頷く。


彼女たちの戦場は、訓練場ではない。情報が渦巻く、デジタルの海だ。

まず、ミカが動いた。

「アヤは、このスレの書き込みパターンと時間を分析して! ユキは、私たちのクラスと、陽菜のクラスのグループLINEに、『変な噂が流れてるけど、信じないでね!』って、根回しをお願い!」

「「了解!」」

二人が素早く行動に移るのを確認し、ミカはスマホの画面を高速でフリックし始めた。


「よし……。まずは、『アリア様ファンクラブ』のメンバーに一斉連絡。『今、アリア様が、卑劣なデマの標的にされています。私たちが、アリア様の名誉を守りましょう!』っと」

ミカがメッセージを送信すると、数秒後には、ファンクラブのグループチャットが「許せない!」「アリア様はそんな人じゃない!」「全力で擁護します!」という、熱いメッセージで埋め尽くされた。


次に、彼女は問題のスレッドに、絶妙なタイミングで書き込みを始めた。

『えー、これってただの嫉妬じゃんw』

『ソース(情報源)もなしに、憶測だけで騒いでるの、みっともないよ』

『てか、この前のグリフォン、アリアさんが倒したってマジ? そっちの方が気になるんだけど』

彼女は、決して感情的にはならない。あくまで冷静に、第三者を装って、スレッドの流れを巧みにコントロールしていく。


一方、アヤの分析も終わっていた。

「ミカ! 最初の書き込みと、それに同調してるいくつかの書き込み、全部同じネットワークから発信されてる! しかも、発信元、男子寮の談話室のWi-Fiだよ!」

「ビンゴ!」

ミカは、にやりと笑う。

「ユキ、その情報、拡散しちゃって! 『このスレ、自作自演みたいだよー』って、軽くね」


情報が、瞬く間に学内ネットワークを駆け巡る。

最初は、半信半疑だった生徒たちも、「自作自演」というキーワードを見て、一気に潮目が変わった。

『うわ、自作自演とか、だっさ』

『特待生に嫉妬した男子の犯行かよw』

『ていうか、アリアさんの強さ、ガチだったんだ。すごい』

スレッドは、もはや不正入学疑惑を語る場ではなく、「自作自演を笑うスレ」と「アリアさんすごい」という賞賛の声で埋め尽くされていった。


そして、極めつけは、陽菜本人からの、クラスグループLINEへの投稿だった。

『みんな、心配してくれてありがとう! アリアさんは、私が一番よく知ってるけど、本当にすごくて、優しい人だよ。変な噂に惑わされないで、自分の目で、本当のアリアさんを見てあげてほしいな』

その、一点の曇りもない、誠実なメッセージ。


「……勝ったね」

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る頃、ミカはスマホの電源を落とし、静かに呟いた。

問題のスレッドは、完全に鎮火。それどころか、この一件で、僕――アリアへの興味と好意的な評価は、以前よりも遥かに高まっていた。


「陽菜、すごいよ! さっきのメッセージ、効果てきめんだった!」

「えへへ、そうかな?」

教室に戻ってきた陽菜を、友人たちが笑顔で迎える。

「でも、一番すごかったのは、ミカだよ! まるで、軍師みたいだった!」

「そ、そんなことないって!」

照れて顔を赤くするミカ。


彼女たちは、自分たちの友情から生まれたささやかな抵抗が、黒木教授の描いたシナリオを、たった数十分で完璧に粉砕してしまったことを、誇らしく思っていた。

だが、彼女たちの戦いは、まだ終わっていなかった。


その日の放課後。

ミカたちのスマホに、一件の匿名メッセージが届いた。差出人は、クラゲのアイコン。

『――騎士団の皆様、見事な情報戦でした。ご褒美に、今回の首謀者たちの、動かぬ証拠ログデータをプレゼントします。あとは、皆様のお好きなように』

添付されていたファイルには、男子寮の談話室のWi-Fiから、誰の端末が、いつ、問題の書き込みを行ったかを示す、完璧なアクセスログが記録されていた。


「……すごい。これって……」

「神様からの、プレゼントかな?」

『銀の百合騎士団』の少女たちは、顔を見合わせ、悪戯っぽく笑った。


翌日の朝。

防衛高校の空気は、どこか奇妙にざわついていた。

黒木派の生徒――田中、鈴木、佐藤の三人が教室に入ると、周囲の生徒たちから、ひそひそとした囁き声と、冷ややかな視線が一斉に突き刺さる。

「うわ、来たよ……」

「自作自演の人たちでしょ?」

「特待生に嫉妬とか、マジでキモいんだけど」


ネット上では拡散されなかった。だが、「犯人はこいつららしい」という情報は、『銀の百合騎士団』の口コミネットワークによって、昨夜のうちに、水面下で学内全体へと完璧に浸透していたのだ。

三人は、針のむしろのような状況に、顔を青くして俯くことしかできない。


そして、追い打ちは、ホームルームの直後にやってきた。

「――田中、鈴木、佐藤。校長先生がお呼びだ。生徒指導室まで来い」

担任教師の冷たい声が、教室に響き渡る。


生徒指導室で彼らを待っていたのは、氷のように冷たい表情の霧島校長だった。

彼女の前のテーブルには、一枚のタブレットが置かれている。そこには、エレクトラから提供された、彼らの犯行を示す、完璧な証拠が表示されていた。

「……言い訳は、聞く気もありません」

霧島校長の静かな、しかし有無を言わせぬ一言に、三人は完全に観念した。


「本来なら、退学処分に相当する、悪質な行為です。ですが……」

霧島校長は、一度だけ目を閉じた。

「被害者であるアリア特待生から、『今回は、厳重注意で済ませてあげてほしい』との申し出がありました。彼女の、その寛大な心に免じて、今回は数日間の自宅謹慎と、奉仕活動で済ませます」

もちろん、僕がそんなことを言った事実はない。全ては、事を穏便に、しかし確実に収めるための、霧島校長の采配だった。

「ですが、覚えておきなさい。二度目は、ありませんよ」


その日のうちに、三人の保護者に連絡が入り、彼らは青ざめた顔で、早退していった。

そのしょげ返った後ろ姿を、教室の窓から眺めながら、ミカたちは小さくガッツポーズを交わす。

彼女たちの、友情と「推しへの愛」から始まったささやかな戦いは、電子の魔女という神出鬼没の協力者を得て、見事な完全勝利で幕を閉じたのだった。


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