表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第5章】 学園動乱編 ~黒きハイエナと勘違いの騎士団~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/142

第58話:騎士団、結成前夜


放課後の第七区画。学生たちで賑わう、お洒落なオープンカフェ。

そのテラス席の一角で、三人の少女たちが、テーブルの上に広げられた一冊のノートを囲み、深刻な顔でひそひそと囁き合っていた。


カチャリ、と音を立てて、佐藤ミカがストロベリーパフェのスプーンを置いた。

「……やっぱり、おかしいよ」

その声は、甘いパフェの雰囲気とは裏腹に、真剣そのものだった。

テーブルの中央に置かれたノートの表紙には、可愛らしい文字で『アリアさん観察日誌』と書かれている。


「だよね。私も思ってた」

向かいに座る田中ユキが、神妙な顔で頷く。彼女は、自分のフルーツタルトには目もくれず、ノートの最新ページを指差した。

「今日の戦闘実技の授業、覚えてる? あの山田先生、アリアさんにだけ、やけに絡んでた。『特待生なら、この程度の訓練、余裕だろうなァ?』とか、ねちっこく言って」

「うんうん! それも、わざと持久力がないア-リアさんが不利になるような、持久戦ばっかりさせてた!」

活発なショートカットが特徴の鈴木アヤが、ぷんぷんと頬を膨らませて身を乗り出す。その勢いで、テーブルのグラスがカランと音を立てた。


「それだけじゃないわ」

ミカは、ノートをめくり、ここ数日の記録を読み上げる。

「先週の座学では、アリアさんが夜間部の生徒だからって、昼間部の授業内容を『知っていて当然』みたいな前提で、難しい質問を浴びせてた。…もちろん、アリアさんは完璧に答えて、逆に先生が絶句してたけど」

「してたしてた! あれは痛快だったよね!」

アヤが、自分のことのように拳を握る。


「でも、問題はそこじゃないの」

ユキが、ふーっとため息をついた。

「上級生の間でも、変な噂が流れてるって、知ってる? 『夜間部の特待生は、ギルドからの圧力で無理やり入学したらしい』とか、『本当は、たいした実力じゃない』とか……」

カフェの賑やかな喧騒が、嘘のように遠ざかっていく。三人の周りだけ、空気が張り詰めていた。


ミカは、ペンを手に取ると、ノートに『黒い霧』と書き込んだ。

「これは、偶然じゃない。明らかに、誰かが意図的に、アリアさんを孤立させようとしてる。アリアさんの居場所を、この学園から奪おうとしてるんだよ」

その言葉に、アヤもユキも、ごくりと喉を鳴らした。


彼女たちの脳裏に、同じ光景が浮かんでいた。

いつも物静かで、フードの下の表情は見えないけれど、陽菜の隣にいる時だけ、どこか安心したような雰囲気を醸し出す、銀髪の少女。

かつて「斎藤蓮」という偽りの姿で、自分の心を押し殺していた、大切な友人。

あの日、大きな決意を持って、本当の自分として生きることを選んだ、儚くも強い少女。


「……許せない」

アヤが、テーブルをバン!と叩いた。

「せっかく、陽菜と一緒に、あの子が自分らしくいられる場所を見つけたのに! それを、大人の汚い都合で、めちゃくちゃにしようなんて!」

「そうだよ…! これは、アリアさんにとって、新しい人生を歩み始めるための、最初の大きな試練なんだ!」

ユキの瞳にも、熱い光が宿る。


ミカは、そんな二人の顔を、ゆっくりと見回した。

そして、静かに、しかし力強く、宣言した。

「……だったら、私たちが、ア-リアさんの騎士にならないと」

「「騎士……!」」

アヤとユキの声が、ハモる。


「陽菜は、今、一番近くでアリアさんを支えてる。でも、陽菜一人じゃ、背負いきれないこともあるはず。だから、私たちが、陽菜の盾となり、アリアさんを守る剣になるの」

ミカは、ノートの新しいページを開くと、そこに堂々とした文字で書き記した。


『銀の百合騎士団』


「……(仮)、だけどね」

照れくさそうに付け加えるミカ。

だが、その名前は、三人の心を一つにするには十分すぎた。


「いいね、それ! 銀の百合騎士団!」

「うん! 私たちの友情にかけて、絶対にアリアさんを守り抜こう!」

三人は、テーブルの中央で、そっと自分たちの手を重ね合わせた。

夕暮れのオレンジ色の光が、彼女たちの真剣な横顔を、キラキラと照らし出す。


これは、歴史にも、誰の記録にも残らない、小さな騎士団の結成の瞬間。

勘違いから生まれ、友情で結ばれた彼女たちの誓いが、やがて、銀髪の少女を狙う巨大な悪意に、ささやかだが、しかし確かな一撃を与えることになる。

そのことを、まだ誰も知らない。ただ、カフェの甘い香りと、少女たちの熱い決意だけが、そこにはあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ