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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

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間話:獅子奮迅の大人たち(と、ちゃっかり受付嬢)


アリアが、クリスティーナ邸の豪奢なベッドの上で、乙女たちの献身的な(そして少し過激な)介抱を受けていた、その裏側。

戦場と化した『バベル・アーク』周辺では、大人たちの、もう一つの死闘が繰り広げられていた。


「――ジン! 右翼から回り込め! ブルックは正面のヒッポグリフを抑えろ! 怯んだところに、俺が叩き込む!」


瓦礫が散乱する中央広場で、ギルドマスターの怒号が響き渡る。その巨躯は、返り血と土埃で汚れ、普段の飄々とした態度は見る影もない。彼は、愛用のクレイモアを獣のように振り回し、襲い来るグリフォンの一体の翼を叩き斬っていた。

「応!」

「任せろ!」

ブルックの大盾が、ヒッポグリフの鋭い嘴を受け止め、火花を散らす。その巨体を押しとどめている間に、斥候のジンが影のように背後へ回り込み、その脚の腱を的確に切り裂いた。完璧な、歴戦の連携だった。


だが、敵の数は、あまりにも多い。

自衛隊の弩級バリスタが空を睨み、次々と矢を放つが、市街地での戦闘では、その威力も制限される。隊員たちは、ライフルを手に、地上で暴れる怪異たちと必死の攻防を繰り広げていた。

「くそっ、キリがねえ!」

ブルックが悪態をつく。その時だった。


「――皆様、お待たせいたしましたぁ♪」


場違いなほど、明るく、そしてのんびりとした声。

ひらひらと、フリルのついたエプロンドレスを翻しながら、戦場に現れたのは、ギルドの受付嬢、セラだった。その華奢な腕には、彼女の身体ほどもある、無骨な対怪異用の超大口径ライフルが、まるでハンドバッグのように抱えられている。


さかのぼること、数十分前。ギルドの臨時指令室。

「まずいな……戦力が、足りん!」

モニターに映し出される惨状に、ギルドマスターは歯噛みしていた。その時、彼の視界の隅で、セラが優雅にお茶を淹れているのが目に入った。

「――セラ! お前も出てくれ!」

「えー、やですよぉ。時間外労働ですしぃ、それに、私の『弾丸』、ちょっとお高いんですから♪」

セラは、にっこりと完璧な笑顔で言い放つ。

「なんでも望みを言ってくれ! 後生だ!」

ギルドマスターの必死の懇願に、セラは、うふふふ、と楽しそうに笑った。

「じゃぁ、仕方ないですねぇ……」


そして、現在。

「ふふっ♪ 風が気持ちいいですねぇ」

セラは、鼻歌でも歌いそうな気軽さで、巨大なライフルのスコープを覗き込んだ。そして、突進してくるヒッポグリフの眉間、その一点に照準を合わせる。

にこやかな表情のまま、彼女はこともなげに、引き金を引いた。


ドゥゥゥゥンッ!!


空気を震わす、腹の底に響くような轟音。

放たれた弾丸は、ヒッポグリフの硬い頭蓋骨を、まるで紙のように貫通した。一撃だった。巨体が、勢いを失って地面に激突し、動かなくなる。


「あ、ブルックさーん、そっち、一体行きますねー」

セラは、よそ見をしながら、がっこん!と、慣れた手つきで次弾を装填する。そして、背後から迫るグリフォンに、振り向きもせずに、腰だめ撃ちの体勢から、再び引き金を引いた。

ドゥゥゥゥンッ!!

二発目の轟音。弾丸は、グリフォンの心臓を正確に撃ち抜き、その巨体を数歩、後ずさらせた。


「「「…………」」」

ギルドマスターも、ブルックも、ジンも、そのあまりの光景に、一瞬だけ動きを止めた。

(……久々に見たけど、やっぱりスゲー迫力な...)

ギルド職員全員が、そのギルドの隠し玉の威力を再確認した。


セラの、規格外の狙撃能力が加わったことで、戦況は一気に傾いた。

彼女が、笑顔で敵の急所を「処理」していく間に、ギルドマスターたちが残敵を掃討し、自衛隊が負傷者を救助する。

やがて、全ての怪異が鎮圧され、『バベル・アーク』に、ようやく静寂が戻った。


戦いが終わった後。

ギルドマスターは、後片付けの指示を飛ばしながら、瓦礫の上に腰掛けていた。そこに、セラが、にこにこしながら近づいてくる。

「マスター♪ お疲れ様ですぅ。それで、約束の『望み』のことなんですけどぉ」

「……うっ」

ギルドマスターは、げっそりとした顔で、天を仰いだ。

「……まあ、わしに何とかできる範囲で、頼む」

「えっ! じゃぁ、できる範囲でいいんでぇ、特別ボーナスとぉ、アリアちゃんとの、二人きりのお食事会ファンサービスのセッティングをお願いしますわ♪ あ!あと、メンテナンスと今回使った分を錬成しておかないといけないので、数日のおやすみを。……それなら、できますでしょ♪」

セラは、完璧な笑顔で、しかし目の奥は全く笑わずに、そう言い切った。

「あ……あぁ……。タイミングを見て、話してみるから、少し待ってくれ……」

ギルドマスターは、力なくそう答えることしかできなかった。


アリアが、新たな「指名依頼(という名の厄介事)」に巻き込まれるまで、あとわずか。

街の平和は、今日も、地味で、偉大な大人たちと、ちゃっかりした最強受付嬢の活躍によって、守られたのだった。


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