表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/142

第54話:眠れる姫君と、甘やかしの城


セバスチャンが運転する黒塗りのリムジンは、サイレンの音が遠のいていく『バベル・アーク』を後にし、静かに走り出した。

車内には、重苦しい沈黙が満ちている。

僕の身体は、後部座席に横たえられ、その頭は陽菜の膝の上に優しく乗せられていた。友人たちは、そんな僕の姿を、心配そうに、そしてどこか神聖なものを見るような目で見つめている。


「……わたくしの、せいですわ」

静寂を破ったのは、クリスティーナの、か細い声だった。

「わたくしが、皆様をお誘いしなければ、アリア様がこんな目に遭うことは……」

「違うよ、クリスティーナ先輩」

陽菜は、僕の銀髪をそっと撫でながら、毅然とした声で言った。

「蓮は……アリアさんは、そこに守るべき人がいたから戦っただけ。先輩のせいじゃない。だから、自分を責めないで」

その言葉に、クリスティーナは唇を噛み締め、窓の外に流れる景色をただ見つめていた。


やがて、リムジンは壮麗な門をくぐり、広大な庭園を持つ、城のような屋敷――エルロード邸へと到着した。

「お嬢様、皆様、ご到着です」

セバスチャンの声と共にドアが開かれると、そこにはすでに、数名の医療スタッフがストレッチャーを用意して待ち構えていた。


「わたくしの屋敷の医療班ですわ。さあ、アリア様をこちらへ」

僕の身体は、セバスチャンから医療スタッフへと慎重に引き渡され、屋敷の中へと運び込まれていく。

陽菜やクリスティーナたちも、心配そうにその後を追った。


通されたのは、病院の一室と見紛うほど、最新の医療設備が整った一室だった。

僕がベッドに寝かされると、医師らしき初老の男性が、少女たちの前に進み出た。

「お嬢様。これより、アリア様の精密検査を始めます。念のため、全身をくまなく確認いたしますので、皆様は一度、隣室でお待ちいただけますでしょうか」

「……わかりましたわ。アリア様のこと、よろしくお願いいたします」

クリスティーナの言葉に、医師は深く一礼した。

陽菜たちは、名残惜しそうにしながらも、部屋を後にするしかなかった。


待合室での時間は、永遠のように長く感じられた。

やがて、ガチャリ、とドアが開き、先ほどの医師が姿を現す。

「お待たせいたしました。検査は終了しました」

その言葉に、陽菜とクリスティーナが、同時に駆け寄った。

「アリア様は!?」

「ご安心ください。九条先生の見立て通り、外傷は軽微。あとは、消耗した体力が回復するのを待つだけです。ただ……」

医師は、少しだけ言い淀んだ。

「九条先生からも、『絶対に安静にさせるように』と、きつく言われております。最低でも丸一日は、しっかりと介護して差し上げるよう、お願いいたします」


その言葉に、陽菜とクリスティーナの瞳に、新たな決意の光が宿る。

やがて、僕が眠る部屋への入室が許可された。

そこにいたのは、先ほどまでのコートドレス姿ではなく、ゆったりとしたシルクのガウンに着替えさせられた、僕の姿だった。

戦闘の混乱の中、どうにか守り切ったのだろう、フェイスマスクとサングラスはつけられたままだったが、フードは外され、月光のような銀髪が、真っ白な枕に広がっている。その穏やかな寝顔は、先ほどまでの激闘が嘘のようだった。


「アリア様……」

クリスティーナが、そっと僕のベッドに近づく。

「後はお任せくださいな。医療班の皆さんは、もう下がって結構ですわ」

「……かしこまりました」

医師たちは、一礼すると、静かに部屋を出ていった。


残されたのは、眠る僕と、五人の少女たち。

クリスティーナは、セバスチャンがどこからともなく用意した、温かいお湯の入った金のたらいと、高級そうなタオルを手に取った。

「まずは、汗をかかれたお身体を、綺麗に拭いてさしあげませんと」


「わ、私が、腕を!」

陽菜が、そっと僕のガウンの袖をまくり、優しく腕を拭き始める。

「では、わたくしは御御足おみあしを……」

クリスティーナも、同じように僕の足を拭き始めた。

ミカたち友人一同は、その光景を少し離れた場所から、固唾を飲んで見守っている。

「きゃー……」「うわぁ……」「あ、あんなところまで……っ!」

彼女たちの、ひそひそとした、しかし興奮を隠しきれない声が部屋に響く。


その、賑やかな囁き声に、僕の意識はゆっくりと浮上してきた。

(………なんだ……?)

重いまぶたを、ゆっくりと持ち上げる。

最初に目に入ったのは、僕の腕を拭いている陽菜の、真剣な横顔。そして、僕の足を拭いているクリスティーナの、どこか恍惚とした表情。

そして、その二人から放たれる、獲物を前にした肉食獣のような、ギラギラとしたオーラ。


「……ん。んん……。な、なにを……?」


僕が、かすれた声を発した瞬間、部屋の空気が、ピシリ、と凍りついた。

陽菜とクリスティーナの動きが、完全に止まる。

(め、目がこわいよ!?)


「あ……アリア! め、目が覚めたっ?」

陽菜が、慌てて僕の手を離し、動揺を隠せない様子で叫ぶ。

「え? あっ! い、いま、汚れていたので、お体を奇麗にしている所なのです! あ、アリア様は絶対安静なので、じっとしていてくださいっ!」

クリスティーナも、しどろもどろになりながら、僕の身体を押さえつけようとする。


「え、あ?ぼくっ、自分で、できるっし!」

「だ、だめです! 絶対安静なのですからっ!」

陽菜とクリスティーナが、左右から僕の身体をがっちりとホールドする。その力は、今の僕では到底抗えないほど強い。


乙女たちの、甘くて、そしてちょっとだけ過激な介護は、僕の抵抗も虚しく、再開されるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ