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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

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第53話:壊れた人形と、乙女たちの献身


僕の意識がブラックアウトした後、その場に残されたのは、静寂と、息を呑む少女たちの姿だった。

ガラスと商品の残骸が散らばるフロアの中央に、力なくうつ伏せに倒れる、銀髪の少女。

その背中では、グリフォンとの激闘で裂けたのだろう、紺色のコートドレスが大きく破れ、白い肌が痛々しく覗いている。その光景に、ミカたち友人一同は、顔を青くし、自分たちが襲われるかもしれなかった恐怖と、身を挺して守ってくれた友への感謝と心配で、意識せず足ががたがたと震えていた。


「――蓮!!」


最初に我に返ったのは、陽菜だった。

彼女は、半泣きになりながら僕の身体に駆け寄ると、その華奢な身体を、壊れ物を扱うように、そっと抱き起した。

「しっかりして、蓮! 目を開けて!」

呼びかけても、僕の身体はぐったりとしたまま、ぴくりとも動かない。ただ、苦しげな呼吸だけが、か細く続いている。


「……くっ!」

クリスティーナは、渋い顔で自分の端末を取り出し、緊急回線で連絡を取り始めたが、どこも繋がらない。

遠くからは、他の冒険者たちの怒号や、怪異の咆哮がまだ聞こえてくる。


「皆さん! とにかく、安全な場所へ! ここは危険です!」

クリスティーナの指示で、陽菜と友人たちは、僕の身体をなんとか安全な場所へと運ぼうとする。

その時だった。

ドガガガガッ!

僕たちの近くにあった瓦礫の山が、弾け飛ぶように吹き飛んだ。

その中から、音もなく現れた一人の男が、まずこちらを確認して、その瞬間、シュバッ!と天高く跳躍し、一足飛びにクリスティーナの目の前に降り立つ。完璧な燕尾服は、一切乱れていない。


「お嬢様、皆様。お怪我はございませんか。わたくとしたことが、出遅れてしまいました」

セバスチャンが、深々と一礼する。


「セバス! 遅いですわっ! アリア様を、早く安全な場所へ!」

「かしこまりました」

クリスティーナの叱責にも、セバスチャンは動じない。彼は、僕のそばにひざまずくと、その身体を、すっ、と驚くほど軽々と、そして優雅に、お姫様抱っこで抱え上げた。


「皆様も、お急ぎを」

あくまで冷静に、スマートに。彼の存在は、パニック寸前だった少女たちの心を、不思議と落ち着かせた。


セバスチャンの先導で、比較的安全なカウンターの内側で一度態勢を整える。僕を床にそっと横たえると、陽菜は気づいた。

僕の両腕から、じわじわと血が滲み出ている。それだけではない。グリフォンの爪が掠めたのだろう、コートドレスの胸元も鋭く切り裂かれ、血が流れていた。

「……蓮、胸も……!」

陽菜は、ためらいながらも、僕の安否を確認するため、意を決して裂けたドレスの胸元をそっと開いた。

現れたのは、白い肌に走る一筋の赤い線と、その下にある胸の膨らみ……。


「「「…………っ!」」」

陽菜は躊躇せず止血のために、服の破れを隠すために用いていたタオルを押し付けて、止血しようとした。

クリスティーナ、そして友人たちは、そのあらわになった胸元から、そっと目をそらした。その顔は、ほんのり赤く染まっていた。


その時。

ガシャン!と、近くのショーウィンドウが外側から蹴破られ、数人の人影が飛び込んできた。

「お待たせ! 救急サービス『九条便』、ただいま到着よ!」

そこに立っていたのは、白衣を翻す、九条アスカ医師だった。


「あらあら、まあ……。派手にやったわねぇ、アリアちゃん」

九条医師は、僕の姿を一瞥すると、すぐにプロの顔になった。

「ふむ……。骨には異常なし。極度の疲労による、一時的な身体機能停止シャットダウンね。(入院させるほどでもないみたいだし……)あとは、あなたたちにお任せするわ」

彼女は、手際良く僕の腕と胸の傷に応急処置を施しながら、陽菜たちに告げた。

「そうね。この子は、丸一日は絶対安静。色々と不便だろうから、しっかりと介抱してあげて。がんばってね」

その言葉には、どこか意味深な響きがあった。


「先生は、一緒には……?」

「私は、まだ仕事が残ってるのよ。この騒ぎで、他にもたくさん怪我人がいるから。残念だけど」

「私もそっちの方が楽しそうで行きたいんだけどねー」と九条医師は誰にも聞こえないような小声で言うと、白衣を翻し、再び戦場の喧騒の中へと消えていった。


残された陽菜とクリスティーナは、顔を見合わせる。

そして、セバスチャンが、再び僕の身体を優しく抱え上げた。

「お嬢様、皆様。リムジンは、地下駐車場にて待機しております。こちらへ」

僕を抱いたまま、彼は瓦礫の山をものともせず、安全なルートを確保していく。まだまだ戦いの音は続いていた。


その小さな、眠れる姫君を守るように、二人の少女とその友人たちは、固い決意の表情で、その後に続いた。


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