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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

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第52話:おめかしの姫君と、空からの厄災


リリィが家族(?)に加わってから数日後、僕たちの日常は、新たな賑やかさを得ていた。

リビングのソファで僕が本を読んでいると、足元でリリィが丸くなって眠っている。時折、僕の足にすり寄ってくるその仕草は、賢者としての威厳など微塵も感じさせない、ただの可愛い猫そのものだった。

(……まあ、悪くない)

そんな穏やかな午後の空気を破ったのは、スマホの軽快な着信音だった。


相手は、クリスティーナだった。

『アリア様、ごきげんよう。来週末、例のお出かけの件、いかがかしら?』

「例の件?」

僕が首を傾げていると、キッチンから顔を出した陽菜が「あ! 三人でのお出かけの約束だよ!」と教えてくれた。すっかり忘れていた。


クリスティーナは、電話の向こうで楽しそうに計画を語り始めた。

『ええ。実は、わたくしのエルロード商会が主導で建設した、巨大な複合商業施設が、先日オープンいたしましたの。その名も『バベル・アーク』! 壁の内側の平和と繁栄を象徴する、最新鋭の施設ですわ。ぜひ、皆様をご招待したいのですけれど』

「……商業施設、か」

あまり気は進まないが、陽菜との約束でもある。断るわけにはいかないだろう。

僕が了承すると、クリスティーナは「まあ、嬉しいですわ!」と、弾んだ声を上げた。


そして、週末。

僕たちは、待ち合わせ場所である『バベル・アーク』のエントランスにいた。

メンバーは、アリア、陽菜、クリスティーナ。そして、「陽菜とアリアさんの初デート(?)、邪魔者から護衛しないと!」という、壮大な勘違いのもとに集結した、陽菜の友人であるミカ、アヤ、ユキの三人も一緒だった。

「うわー! すごいね、ここ!」

「本当! 大災害前の大型商業施設って、こんな感じだったんだろうねー」

友人たちが、きらびやかな施設の光景に目を輝かせている。

ガラス張りの天井からは太陽光が降り注ぎ、ホログラムの広告が宙を舞う。行き交う人々は皆、楽しそうな笑顔を浮かべていた。


「さあ、皆さん! まずは、アリア様のお洋服を選びに行きましょう!」

クリスティーナの、鶴の一声ならぬ、女王の一声で、本日のメインイベントが決定した。

「え、俺は別に……」

「だーめ! アリア様は、いつも黒いパーカーばかり。たまには、もっとファッショナブルなお洋服もお召しにならないと!」

「そうだよ、アリアさん! 絶対、可愛い服が似合うって!」

陽菜とクリスティーナ、そして友人たちにぐいぐいと腕を引かれ、僕は高級ブティックへと連行された。


そこからは、僕にとって地獄、彼女たちにとっては天国のような、ファッションショーの始まりだった。

「まあ! このゴシック調のドレス、アリア様のミステリアスな雰囲気にぴったりですわ!」

「こっちの、ひらひらのスカートも可愛いよ! 蓮、いや、アリアさん、足が綺麗だから、絶対似合う!」

僕の意思など完全に無視され、次から次へと服を着せ替えさせられる。


そして、最終的に選ばれたのは、クリスティーナが「わたくしからのプレゼントですわ!」と押し付けてきた、銀糸の刺繍が施された、紺色のフード付きコートドレスだった。フードを目深に被れば顔は隠せるが、丈の短いスカートから伸びる足は、どうにも落ち着かない。

「きゃー! アリアさん、お姫様みたい!」

「おお、スマートで、そこそこ胸も……」

「奇麗な足……」

友人たちの品評会に、僕は羞恥心で顔から火が出そうだった。僕たちが、そんなきらびやかな時間を過ごしていた、その時だった。


ウウウウウウウウウウウウッ!!


突如、『バベル・アーク』全体に、けたたましい警報が鳴り響いた。

ガラス張りの天井の向こう、青い空に、黒い影が複数、舞っているのが見えた。

「緊急警報! 緊急警報! 第七区画上空に、大型飛行型怪異、複数出現! 確認された個体は、グリフォン三体、ヒッポグリフ五体! 付近の市民は、直ちに地下シェルターへ避難してください!」

アナウンスが、人々の悲鳴にかき消される。


ピリリッ!

僕のギルドカードが振動し、緊急招集の知らせが届く。

だが、僕の最優先事項は、ギルドへの合流ではない。

「みんな、こっちだ! 地下のシェルターへ急ぐぞ!」

僕は、すぐそばにいる陽菜や友人たち、そしてパニックに陥っている周囲の人々を守ることを第一に考え、避難経路へと誘導し始めた。


その時だった。

ドゴォォォォンッ!!

凄まじい衝撃音と共に、『バベル・アーク』の巨大なガラス天井の一部が、粉々に砕け散った。

自衛隊のバリスタによって翼を傷つけられ、飛べなくなった一体のグリフォンが、僕たちのすぐ近くのフロアに墜落してきたのだ。


ガラスの破片と土煙が舞う中、巨体が起き上がる。その翼は折れ、身体のあちこちから血を流しているが、その瞳は怒りと苦痛で赤く染まり、凶暴性はむしろ増していた。

「グルルルルル……!」

グリフォンは、周囲に撒き散らされた高級ブランドのバッグやマネキンを、その巨大な鉤爪でめちゃくちゃに破壊し、大暴れを始めた。


逃げ惑う人々。その流れから取り残され、腰を抜かして動けなくなっている陽菜の友人たちの姿が、僕の目に入った。

「……っ!」

僕は、着せられたばかりのコートドレスの裾が翻るのも構わず、彼女たちの前に立った。

「下がってて」

僕は、この日のためにギルドショップで新調した、ミスリル製のコンバットナイフを抜き放ち、静かにグリフォンと対峙する。


僕の存在に気づいたグリフォンが、口から粘液質の体液をまき散らしながら、血走った目でこちらを睨みつけた。

次の瞬間。

ドンッ!

床を蹴る轟音と共に、巨体が凄まじい加速で突進してきた!

(速い……!)

陽菜たちが、まだ十分に距離を取れていない。避けられない!


「ぐぅっ!」

僕は咄嗟に身体強化を発動させ、両腕をクロスさせて、その突進を真正面から受け止めた。ミシミシ、と骨が軋む音が聞こえる。凄まじい衝撃に、足元の床が砕け散った。

「むぅぅぅっ!!」

ありったけの力を込めて、その巨体を押し返す。

グリフォンは、よたよたっ、と数歩たたらを踏んだだけだった。僕の全力の防御が、この程度。

「みんな、もっと離れて!!」

僕が叫ぶ。


「ぐゎぁぁああああ!」

体勢を立て直したグリフォンが、今度は巨大な鷲の嘴で、僕に噛みついてきた!

僕は、とっさに近くにあったマネキンを掴むと、力任せにその口の中へと投げ込んだ!

ガキン!と鈍い音がして、グリフォンの口が閉じられなくなる。

だが、その一瞬の攻防で、僕のエネルギーは限界に近づいていた。視界がチカ-チカと明滅し、身体がふらつく。


「っはぁ……はぁ……!」

だが、ここで倒れるわけにはいかない。

グリフォンが、口に挟まったマネキンを振り払おうともがいている、その隙。

僕は、最後の力を振り絞り、ミスリルのナイフを逆手に持つと、その懐へと飛び込んだ。


ばすっ!

ナイフが、グリフォンの心臓を深々と貫く。

「ぐううぅぅおおぉぉ!」

致命傷を受けたグリフォンは、苦悶の叫びを上げ、のたうち回った。

っどたっ、だた!だた!がしゃーん!

その巨体が暴れるたびに、周囲の商品が吹き飛ばされ、ショーウィンドウが派手に砕け散る。


やがて、その動きが、ゆっくりと弱まっていく。

僕は、ふら……っと立ち上がり、最後の気力を振り絞って一瞬で近づくと、グリフォンの首筋に、ズン!と渾身のとどめを刺した。

そして、返り血を避けるように、すぐに後ろへ飛びのき、しゅたっ、とコートドレスの裾を翻して、かっこよく着地。


……までは、良かった。

だが、僕の意識と力は、もう限界だった。

「……む、り……」

膝から力が抜け、ヘチャッ、と前のめりに、その場に崩れ落ちた。

「かはーっ……かはーっ……」

胸が激しく上下し、指一本動かせない。意識だけが、辛うじて繋がっている状態だった。


「「「アリアさん!!」」」

「蓮!!」


遠のく意識の中、僕の名前を呼ぶ、陽菜たちの悲鳴が聞こえた。

……みんな、無事だったか……。

それを最後に、僕の意識は、完全に闇へと沈んだ。


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