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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

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第49話:紫の光、ひと欠片の約束


リヴァイアサンとの激闘を終え、静寂が戻った水没ステーション。

僕たちは、プラットホームの中央で、淡い紫色の光を放つ巨大な結晶体――エーテル結晶の前に立っていた。

その大きさは、軽自動車ほどもあるだろうか。表面は滑らかで、内側から脈動するかのように、明滅を繰り返している。ただそこにあるだけで、周囲の空間が濃密なエネルギーで満たされているのが肌で感じられた。


「これが……エーテル結晶……」

陽菜が、息を呑んで呟く。

僕も、その圧倒的な存在感に、ゴクリと喉を鳴らした。これが、僕の力を一時的にブーストさせる切り札。そして、僕に凄まじい反動をもたらす、諸刃の剣。


「アリア様、陽菜様、お下がりください」

ケイが、いつの間にか僕たちの前に立ち、手に持った端末で結晶のエネルギー量を測定し始めた。

「……凄まじいエネルギー量です。ですが、安定はしていますね。これなら、安全に一部を切り出すことができそうです」

「切り出す?」

「はい。この全てを持ち帰るのは不可能ですし、そもそも、アリア様が一度に使用する量としては、この欠片一つで十分すぎるほどです」

ケイは、結晶体の一部、ちょうど僕の拳ほどの大きさの部分を指差した。


「……俺がやる」

僕は、ナイフを構え、結晶体へと近づいた。

ナイフの先端に、身体強化のエネルギーを集中させる。そして、ケイが示した部分に、慎重に刃を当てた。

キンッ、と硬い音が響く。だが、少し力を込めると、まるで硬いゼリーを切るかのように、すんなりと刃が入っていった。


やがて、カラン、と乾いた音を立てて、紫色の結晶の欠片が、僕の手の中に収まった。

その瞬間、欠片から放たれた強烈な光が、ドーム全体を一瞬だけ照らし出す。

僕の手の中にある結晶は、まるで生きているかのように、温かく、そして力強く脈動していた。これが、僕の新たな力。


「……よし。これで、目的は達成だ。帰るぞ」

僕がそう言って、結晶を慎重にサバイバルバッグにしまおうとした、その時だった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


僕たちが立っているプラットホームが、いや、このドーム全体が、激しく揺れ始めた。

天井から、パラパラと土砂が落ちてくる。

「な、何!?」

「まずいです! 先ほどのリヴァイアサンとの戦闘と、結晶を切り出した衝撃で、この空間の均衡が崩れ始めています! このままでは、崩落します!」

ケイが、悲鳴に近い声で叫んだ。


「蓮、早く!」

陽菜が僕の手を掴んで走り出す。ケイも、慌ててそれに続いた。

僕たちは、来た道をとにかく全力で引き返す。背後からは、壁が崩れ落ちる轟音が、けたたましく追いかけてきた。


「はぁっ、はぁっ……!」

地上へと続く階段を駆け上がり、僕たちが外の空気を吸い込んだ直後。

ズウウウウウウンッ!!!!

地響きと共に、僕たちが今までいた地下空間が、完全に崩落した音が響き渡った。旧地下鉄『銀龍線』の入り口は、完全に土砂で埋まってしまっている。


「……危なかった……」

陽菜が、胸を撫で下ろす。

「ですが、これでエーテル結晶の鉱脈のことも、誰にも知られることはなくなりましたね。結果オーライです!」

ケイは、なぜか少しだけ嬉しそうに言った。


僕たちは、顔を見合わせ、安堵のため息をつく。

だが、僕の頭の中は、先ほど手に入れた結晶のことでいっぱいだった。

これを、いつ使うことになるのか。そして、使った後、僕はどうなってしまうのか。

漠然とした不安と、同時に、手に入れた力への確かな手応え。その二つが、僕の心の中で渦巻いていた。


「……さあ、帰ろう。陽菜」

僕は、隣に立つ少女の名前を呼んだ。

「……うん!」

陽菜は、僕の意図を察したように、力強く頷いた。

僕たちが交わした、もう一つの約束。それを果たすために。


帰り道。

ケイは「わ、私はここで、エレクトラ様に報告がありますので!」と言って、途中の路地裏でそそくさと姿を消した。

僕と陽菜は、二人きりで、夕日に染まる街を歩く。

その少し離れた場所で、一匹の黒猫が、複雑な表情で僕たちを見つめていた。

(……エーテル結晶。あんな危険なものを、アリアは手に入れてしまった。一体、何と戦うつもりなんだにゃ……?)

リリィは、僕たちの知らないところで、さらに警戒を強めることを決意していた。


そして、家にたどり着いた僕たちは、疲れた身体をソファに投げ出した。

「疲れたー……。でも、よかった。無事に帰ってこれて」

「ああ……」

静かな部屋。二人だけの時間。

僕のポケットの中で、エーテル結晶の欠片が、かすかな熱を帯びているのを感じた。


このひと欠片の約束が、僕たちの未来をどう変えていくのか。

僕にはまだ、知る由もなかった。

ただ、今は、この穏やかな時間が、何よりも愛おしかった。


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