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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

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第48話:水没ステーションと、二つの光


ドジっ娘魔法使い(の皮を被った魔女)に捕獲された賢者猫のプライドはズタズタをローブの中に隠し持ったまま、ケイは僕たちの先導を続けた。

時折、彼女のローブが「もごもごっ!」「ふぎゅっ!」と不自然に蠢いているが、僕と陽菜は「また何かドジを踏んでるんだろう」くらいにしか思わなかった。


「この先です! 巨大な空間と、強いエネルギー反応! 間違いありません、ここが終点です!」

ケイが指差す先、古びた鉄の扉があった。所々が錆びつき、蔦が絡まっている。

「……開けるぞ」

僕が扉に手をかけ、力を込めると、ギィィィ…という重い音を立てて、道が開かれた。


その先に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。

巨大なドーム状の空間。そこは、かつて地下鉄のターミナル駅だった場所だろう。だが、今ではその大部分が、不気味なほど澄んだ地下水に満たされ、幻想的な湖のようになっている。天井の亀裂から差し込む、月光にも似た光が水面を照らし、壁や柱に自生する光ゴケが、青白い幽玄な光を放っていた。

そして、その水没したホームの中央。わずかに水面から突き出たプラットホームの上に、それはあった。


淡い紫色の光を放つ、巨大な結晶体の塊。

「……エーテル結晶……!」

間違いない。慧が言っていた、僕の切り札。

僕がゴクリと喉を鳴らした、その時だった。


ザバァァァンッ!!


静かだった水面が、突如として激しく泡立ち、巨大な影が姿を現した。

それは、蛇のような長い胴体に、ワニのような強靭な顎、そして無数の触手を持つ、水棲型の巨大怪異だった。その身体の表面には、エーテル結晶のエネルギーの影響か、紫色の鉱石のようなものが突き出している。

「こ、こいつがここのヌシか!」

陽菜が、警戒の声を上げる。


「グルォォオオオオ!!!」

怪異――リヴァイアサン・カスタムとでも言うべきか――は、僕たちを侵入者とみなし、その巨大な顎を開けて襲い掛かってきた。同時に、水面から無数の触手が、鞭のようにしなって僕たちを薙ぎ払おうとする。


「陽菜、ケイ! 下がってろ!」

僕は二人に指示を出し、単身で迎え撃つ。

プラットホームの残骸を足場に、目まぐるしく跳び回りながら、触手の嵐を回避する。水しぶきが上がり、視界が遮られる。

(……まずい。水の中では、奴が有利すぎる!)

僕は、触手の一本をナイフで切り裂くが、すぐに再生してしまう。決定打を与えられない。


「蓮!援護する!」

陽菜が、渾身の火球を放った。火球はリヴァイアサンの巨体に命中し、ジュウッ!と水蒸気を上げるが、ダメージは浅い。

「くそっ、やっぱり水の中じゃ、私の炎も……!」

陽菜が悔しそうに歯噛みする。


その時だった。

「――お二人とも! チャンスは、作ります!」

後方から、ケイの凛とした声が響いた。いつものドジな声色とは全く違う、冷静で、力強い声。

僕と陽菜が振り返ると、ケイはローブの中から、リリィをそっと解放していた。

「にゃっ!?」

突然自由になったリリィは、状況が飲み込めず、目を白黒させている。


「猫さん! 少しだけ、お静かにお願いしますね!」

ケイはリリィにそう言うと、懐から取り出した、いかにも怪しい光を放つスマートフォン(魔改造済み)を片手に、杖を構えた。

そして、杖の先から、蜘蛛の糸のように細い、きらきらと光る導体が「ぱしぃ!」という音と共に射出され、遠くにある旧式の配電盤のメンテナンスポートに寸分の狂いもなく吸着した。


そして、杖を高く掲げ、朗々と詠唱を始める。

「古き鉄のことわりよ、我が声に耳をて! 電子の恵みもて、乾きの大地をここに顕現させよ! 『システム・オーバーライド』!」


彼女がそう叫ぶと、スマホの画面に、常人には理解不能なコマンドが滝のように流れ落ちていく。

(……なんだ、今の詠唱は。聞いたことがない魔法体系だ。それに、あの杖の先に付いているのは、アンテナか……?)

僕が訝しむ間もなく、ケイの「魔法?」は発動した。


ガコンッ!ゴゴゴゴゴ……!


次の瞬間、ドームの天井にある旧式スプリンクラーから、錆びた水が滝のように降り注ぎ始めた。そして、ホームの底にあった巨大な排水溝が、轟音と共にその口を開き、凄まじい勢いで水を吸い込み始める。

陽菜は、目の前の光景に完全に目を奪われている。

(……糸のようなものを飛ばして、呪文を唱えたら、機械が動いた……? そういう魔法なのか……?)

僕も、理屈は分からないが、とにかくすごい魔法なのだろうと納得してしまった。


急激な水位の低下に、リヴァイアサンが明らかに動揺した。その動きが、一瞬だけ止まる。

「陽菜さん! 今です! 水が引けば、あなたの炎の威力が最大限に発揮できるはず!」

「……うん!」

陽菜は、ケイの意図を瞬時に理解した。

彼女は、両手にありったけの魔力を集中させる。その手の中に灯る炎は、もはや火球ではない。渦を巻く、灼熱の奔流だ。

「いっけええええええええ!!」


陽菜が放った炎の渦は、水位が下がって剥き出しになったリヴァイアサンの胴体を、完全に飲み込んだ。

「ギィヤアアアアアアアアアアアアッ!!」

断末魔の叫び。

だが、リヴァイアサンはまだ死んでいなかった。黒焦げになった身体で、最後の力を振り絞り、その巨大な顎を、僕めがけて振り下ろす。


「――終わりだ」

僕は、その隙を見逃さなかった。

身体強化を発動させ、リヴァイアサンの顎を駆け上がる。そして、眉間に埋め込まれた、巨大な魔石へと、ありったけの力を込めて、ナイフを突き立てた。

ズブリ、と鈍い手応え。


魔石が砕け散ると同時に、リヴァイアサンの巨体は、完全に生命活動を停止し、ゆっくりと傾ぎ、水底へと沈んでいった。


「……はぁっ、はぁっ……」

僕も、陽菜も、肩で大きく息をしていた。

静寂が戻った空間に、僕たちの荒い呼吸音だけが響く。


「やったね、蓮!」

「ああ。お前と……ケイのおかげだ」

僕がケイの方を見ると、彼女は慌てて導体を杖に巻き取り、スマホを隠しながら「えへへ……まぐれですよ、まぐれ! 私の魔法、たまにしか成功しないんです!」と、いつものドジっ娘モードに戻り、頭を掻いていた。

だが、そのローブの足元で、腰を抜かしたようにへたり込んでいる黒猫と、目が合った気がした。


ともあれ、障害は排除された。

僕たちは、ゆっくりと、プラットホームの中央に鎮座する、エーテル結晶へと歩み寄った。

僕の、そして僕たちの運命を変えるかもしれない、諸刃の剣。

その紫色の輝きは、あまりにも美しく、そしてどこか不気味に、僕たちを誘っていた。


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