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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

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第46話:怪しい魔法使いと、集いし者たち


週末の早朝。

僕と陽菜は、旧地下鉄『銀龍線』への探索準備を整え、ギルドで最後の物資調達を行っていた。

「これでよし、と。ロープも、予備のライトも買ったし、準備万端だね、蓮!」

「ああ。あとは、これを持って行くだけだ」

僕がそう言ってカウンターに向かうと、受付のセラが困惑した表情で、一枚のメモを差し出してきた。


「あ、アリアさん! 今朝、フードを目深に被った方が、これをアリアさんに渡してくれと……」

メモには、たった一言、こう書かれていた。


『この娘を、優しくサポートしながら、一緒に連れて行ってあげてね。きっと、役に立つわ! by E』


「……E?」

僕が首を傾げると、セラは「その『この娘』というのは、たぶん……」と、おそるおそるカウンターの隅を指差した。

そこにいたのは、あまりにも怪しい少女だった。


やけに大きな、つばの広いとんがり帽子を目深に被り、顔には、どこかで見たような、ぐるぐると分厚いレンズのメガネ。服装は、サイズの合っていない、ダボダボの魔法使い風ローブ。

その少女は、カウンターの横で、ひたすらにもじもじと指をいじっている。

そのあまりの怪しさと、周囲から浮きまくっている異様な存在感に、早朝からギルドにいた数人の冒険者たちも、遠巻きに見て見ぬフリをしていた。微妙な空気が、その一角だけを支配している。


(……エレクトラが送り込んできた、サポート役か)

僕は、深いため息をついた。

(よりにもよって、こんな見るからに頼りなさそうな奴を……。それに、このメガネ、どこかで……)

一瞬、コンビニ店員の顔が脳裏をよぎったが、雰囲気も性別も(ケイは明らかに少女だ)違う。ただの偶然だろうと、僕はすぐにその考えを打ち消した。


「……どういうことかな、これは...」

僕が近づくと、魔法使いの少女――ケイは、びくっ!と肩を震わせ、慌てて僕に向き直った。

「あ、あ、あの! け、ケイと申します! エレクトラ様より、アリア様のサポートを命じられて、参上いたしました! あ、足手まといにならないよう、が、頑張りますので! よろしくお願いします!」

ロボットのようにぎこちなくお辞儀をするが、帽子のつばがカウンターに激突し、「ごっつんこ」と間の抜けた音を立てている。

陽菜は、その姿を見て「だ、大丈夫ですか!?」と駆け寄っていた。


「……はぁ。仕方ない。行くぞ」

僕は、この新たな厄介事を押し付けられたことを半ば諦め、二人を促してギルドを後にした。

こうして、僕たちのパーティーは、アリア、陽菜、そして謎のドジっ娘魔法使いケイ、という奇妙な三人組となった。



僕たちが、旧地下鉄『銀龍線』の入り口へと向かう、その少し後ろ。

物陰から、一匹の黒猫が、静かにその様子をうかがっていた。

(……なんだ、あいつは。あの怪しい魔法使い、どこかで見たような気がするにゃ……。まあ、いい。とにかく、ついていくしかない)

リリィは、気配を完全に消し、僕たちの後を追跡し続ける。


旧地下鉄の入り口は、分厚いコンクリートと鉄格子で厳重に封鎖されていた。

「どうしよう、蓮。これじゃ、中に入れないよ...」

「心配ご無用です!」

陽菜が困っていると、ケイが胸を張って前に出た。

「えいっ!」

彼女がローブの袖から取り出した、小さな端末を操作すると、厳重な電子ロックが「ガチャン」と軽い音を立てて解除された。

「すごい! どうやったの!?」

「えへへ。魔女の、ちょっとした魔法ですよ」

得意げにウィンクするケイ。僕は、彼女がただのドジっ娘ではないことを確信した。


地下へ続く階段は、ひんやりとした、湿った空気に満ちていた。陽菜がスキルで放つ火球の明かりを頼りに、僕たちは慎重に先へと進む。

ケイは、時折「わっ!」「きゃっ!」と何もないところでつまづいたり、壁に頭をぶつけたりしているが、その瞳は、暗闇の中でも爛々と輝き、周囲の状況を冷静に分析している...ようにも見えた。


しばらく進むと、開けた空間に出た。古いホームの跡地だ。そこには、数体の怪異がうごめいていた。イノシシのような体躯に、熊のような腕を持つ、Dランク怪異――ベアボアだ。

「蓮、私が一体引きつける!」

陽菜が前に出ようとするのを、僕は手で制した。

「いや、ここは俺がやる。お前たちは下がるんだ」

「で、でも!」

「心配するな。肩慣らしだ」

僕は、ナイフを抜き放ち、ベアボアの群れへと単身で突っ込んでいった。

一体目の懐に潜り込み、下から顎を打ち上げるように蹴り飛ばす。その勢いを利用して、背後にいた二体目の喉笛をナイフで切り裂いた。完璧な連携、最小限の動き。


木の影から、いや、柱の影から戦いを見守っていたケイは、その光景に、恍惚とした表情を浮かべていた。

「く、くふふふっ……。生アリア様、す、凄いですわ……。この動き、この強さ……ぐ、ぐふふふっ」

彼女は、一人でぶつぶつと呟き、興奮を抑えきれない様子で身をよじっていた。

その異様な気配に、僕が「えっ?」と一瞬だけ彼女の方を振り返ると、ケイはその瞬間には姿勢を正していて、ぶんぶんと手を振った。

「ア、アリア様! 頑張ってくださいー!」

そこには、ただのドジっ娘応援団がいるだけだった。


(……き、気のせいか? 今、何か……)

僕は、一瞬感じた悪寒を振り払い、再び戦闘に集中した。


僕が一体目の追撃に向かおうとした、その時。

「アリア様! 危ない! えいっ!」

柱の影から、ケイが叫び声と共に、手のひらサイズの金属球を投げつけた。金属球は、ベアボアの足元で炸裂し、目眩まし程度の閃光と煙を発生させる。

ベアボアの動きが、ほんの一瞬だけ、止まった。

(……ケイの援護か!)

ドジっ娘だと思っていたが、意外と度胸があるらしい。そして、タイミングも悪くない。

僕はその隙を逃さず、怯んだベアボアの魔石を、正確に貫いた。


だが、ケイの援護は、これで終わりではなかった。

「アリア様! 今です! その、えーっと……『サンダー・ボルト』!」

彼女が、ローブの袖から取り出した、いかにも怪しい杖を振るう。

すると、杖の先から、バチバチと小さな電撃が放たれ――明後日の方向の壁に命中し、黒焦げにした。

「……あ」

「…………」

僕も、残ったベアボアも、一瞬、ケイのいた方向に視線を向けてしまった。

なんとも言えない、気まずい沈黙が流れる。


「う、ううう~。中々上手くいきませんね。アリア様、ごめんなさい」

ケイは、杖をくるくると回しながら、悪びれる様子もなく舌をぺろりと出した。その態度は、落ち込んでいるというよりは、「テヘペロ」といった感じだ。

その一瞬の隙が、ベアボアにとっては致命的だった。僕のナイフが、その眉間を深々と貫いていた。


全ての怪異を倒し、静寂が戻ったホーム。

「はぁ……。助かった、のか?」

僕は、ケイの不可解な援護(?)に、首を傾げるしかなかった。

彼女の行動は、一見するとドジで危なっかしい。だが、結果的に、僕が戦いやすい状況を完璧に作り出していた。

(……わざと、か?)

僕が彼女に疑いの目を向けると、ケイは「えへへ」と笑うだけだった。


「さあ、アリア様! 陽菜様! 先を急ぎましょう!」

ケイは、何事もなかったかのように、元気よく先頭を歩き始めた。その足取りは、なぜか全くふらついていない。

僕と陽菜は、顔を見合わせ、この不思議な魔法使いの後ろを、ついていくしかなかった。

そして、そのさらに後ろを、一匹の黒猫が、呆れたような、それでいて警戒を強めた目で、静かに追っていた。


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