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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

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第45話:少女の決意と、二つの約束


翌朝。

僕は、陽菜が学校へ行く準備をしているタイミングを見計らって、切り出した。

「陽菜。今度の週末、少し付き合ってほしいところがある」

「え? いいけど、どこに行くの?」

僕が、スマホに表示させた旧地下鉄『銀龍線』のマップを見せると、陽菜は「ここって、確か立入禁止の旧災厄区域じゃ……」と眉をひそめた。


僕は、昨夜の慧とのやり取りと、エーテル結晶のことを、包み隠さず話した。副作用のリスクについても、正直に伝えた。

案の定、陽菜は血相を変えて反対した。

「だめ! 絶対にだめだよ! そんな危険なこと!」

「でも、これがあれば、いざという時にお前を守れる。伊集院権三みたいな奴が、また現れないとも限らないんだぞ」

「だからって、蓮がそんな危ない目に遭うのは嫌! 蓮が指一本動かせなくなったら、どうするのよ!」

「その時は、お前が助けてくれるんだろ?」

僕が、まっすぐに彼女の目を見て言うと、陽菜は「うっ…」と言葉に詰まった。その白い頬が、ぽっと赤く染まる。

「そ、それは……当たり前だけど……。でも、そういう問題じゃなくて!」

「俺は、もう決めたんだ。お前に心配かけたくないから、本当は一人で行くつもりだった。でも、何かあった時に、お前まで危険な目に遭わせるわけにはいかない。だから、正直に話した。陽菜には、地上で待機していてほしい。万が一、俺が帰ってこなかったら……その時は、すぐにギルドに連絡してくれ」


僕の真剣な眼差しに、陽菜はしばらく黙り込んでいた。彼女の頭の中で、様々な思いがせめぎ合っているのが、手に取るように分かった。

やがて、彼女は大きなため息を一つついて、顔を上げた。その瞳には、覚悟の色が宿っていた。


「……わかった。蓮の決意が、そこまで固いなら、私はもう止めない」

「陽菜……」

「でも、条件がある」

彼女は、僕の前に人差し指を突きつけた。

「一つ。私も、一緒に行く」

「なっ!? だめだ! 地下は危険すぎる!」

「危険だから、一緒に行くの! 蓮が副作用で動けなくなったら、誰が蓮を地上まで運ぶのよ? 私のスキルがあれば、暗い場所でも明かりを確保できる。蓮一人で行くより、絶対に安全だって、私にはわかる!」


彼女の言う通りだった。僕が動けなくなった場合、一人で地上に戻るのは不可能に近い。陽菜のサポートがあれば、成功率は格段に上がる。

「……わかった。一緒に行こう」

僕が頷くと、陽菜は「よし!」と拳を握り、そして二本目の指を立てた。


「そして、二つ目の約束。……もし、無事にエーテル結晶を手に入れて、帰ってこれたら……」

陽菜は、少しだけ言い淀み、視線を泳がせた。

「その……今度のお休み、二人で、お出かけしない?」

「……お出かけ?」

「そ、そう! ほら、クリスティーナ先輩とも約束してるし! その、予行演習、みたいな? だ、だから、その……ダメ、かな?」

上目遣いで、僕の顔を覗き込んでくる。その姿は、あまりにも……可愛くて。

僕は、不意に高鳴る心臓を抑えながら、努めて冷静に答えた。

「……ああ。わかった。約束だ」

「! うん!」

僕の返事に、陽菜は満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、まるで太陽のように眩しくて、僕の胸を温かくした。


こうして、僕たちは週末に、旧地下鉄『銀龍線』の探索へ向かうことになった。

それは、僕の力を強化するための、危険な冒険。

そして、その先にある、ささやかな「デートの約束」が、僕たちの心を強く結びつけていた。


その日の放課後。

陽菜は、クリスティーナに「週末は、少し家の用事で……」と、当たり障りなくお出かけの誘いを断っていた。

クリスティーナは「まあ、残念ですわ。では、来週にでも」と優雅に頷いていたが、その内心は穏やかではなかった。

(家の用事……? アリア様と、二人きりで……? いったい、何を……!)

彼女の妄想は、あらぬ方向へと暴走を始めていた。


一方、僕たちの家の近くの路地裏では。

一匹の黒猫が、そわそわと落ち着かない様子で歩き回っていた。

「にゃーん……(どうしようかにゃ……)」

リリィは、陽菜に「拾ってください」とアピールするための、最高のシチュエーションを模索していた。

(雨の日に、段ボール箱の中で震える、というのはどうかにゃ? いや、ベタすぎる……。怪我をしたふりをして、道端で倒れている、というのは? いや、プライドが許さないにゃ……!)

元エリート賢者の猫は、意外なところで、不器用さとプライドの高さを発揮していた。


「まあ、いいにゃ。明日こそは、必ず……!」

リリィが新たな決意を固めた、その時。

アパートから出てきた僕と陽菜の会話が、彼女の耳に届いた。

「週末、地下鉄に行くなら、それなりの装備が必要だね」

「うん。ギルドのショップで、ロープとか、強力なライトとか、見てみようか」

「『銀龍線』……エーテル結晶……」


(……なに!?)

その単語を聞いた瞬間、リリィの全身の毛が、ぶわっと逆立った。

(あいつら、何を考えてるんだにゃ!? 旧世界の地下鉄に、エーテル結晶を探しに!? 馬鹿か! あそこは、ただの廃墟じゃない! 大災害の時に、異世界のエネルギーが漏れ出した場所! そのせいで、普通の怪異とは質の違う、もっと厄介な奴らがうろついてるって話だにゃ!)


リリィは、アリアと同じ世界から来た知識として、エーテル結晶がどういうものか、そしてそれがどういう場所に生成されやすいかを知っていた。そして、そういう場所には、決まって異世界のエネルギーに影響された、特殊で凶暴な怪異が出現することも。


(……まずいにゃ。まずいまずいまずい! あの二人だけじゃ、絶対に危険だ! アリアは短期決戦型だし、あの陽菜って子も、まだ実戦経験が浅すぎる!)

悠長に潜入計画を練っている場合ではない。

(こうなったら、仕方ないにゃ……!)

リリィは、覚悟を決めた。


彼女は、僕たちの後を、気配を殺して追跡し始めた。

僕と陽菜の、命がけの冒険。

その背後から、もう一人(一匹)の、頼もしい(?)仲間が、こっそりとついてきていることを、僕たちはまだ、知る由もなかった。


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