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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第4章:紫水晶の誓い

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第44話:魔女のホログラムと、諸刃の剣


陽菜が眠りについた後、僕は一人、リビングのソファで今日の情報収集の成果を整理していた。

ギルドの古文書、ネット上の断片的な情報……どれも決め手に欠ける。

(結局、慧からの連絡待ちか……)

僕がそう思って、スマホに手を伸ばした、その瞬間だった。


ピロリンッ♪


スマホから、間の抜けた電子音が鳴り響いた。画面には、見慣れないクラゲのアイコンが表示されている。

僕がアイコンをタップすると、画面が真っ暗になり、中央に『CONNECTING...』という文字が浮かび上がった。

そして、次の瞬間。


スマホの上部の空間から、淡い光があふれ出し、ニョキッ!と、半透明の立体映像ホログラムが飛び出してきた。

それは、あのコンビニ店員――相良慧の姿だった。しかも、ご丁寧にデフォルメされた、三頭身のちびキャラバージョンだ。


「……なっ!?」

僕は、突然の怪現象に、思わずソファから飛びのいた。


「はーろー! 聞こえてますかー、見えてますかー! こちら、あなたの隣に這い寄る混沌、電子の魔女エレクトラでーす!」


立体映像の慧は、元気いっぱいに手を振りながら、僕とは全く逆の方向を向いて喋っていた。

(……どっちにいるか、分かってないのか、こいつは)

「おい」

僕が声をかけると、立体映像の慧は、くるりとこちらを振り返った。

「おっと、失礼! カメラ位置の調整がまだでした! いやー、ギルドの資料室の監視カメラ映像から、アリア様が調べている内容を特定しまして。それで、私の方でも調べてみたんですよ! そしたら、ありましたありました! 女神様の『いざという時』のための、とっておきのブーストアイテムの情報が!」

彼女は、僕の目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、得意げに胸を張った。


「結論から言いますと、アリア様の燃費問題を根本的に解決するのは、今の科学力や魔術理論では、ほぼ不可能です!」

「……そうか」

予想通りの答えに、僕は少しだけ肩を落とす。

「ですが! 一時的に出力を引き上げ、活動限界を数分間だけ伸ばす『切り札』なら、手に入れる方法があります!」

慧は、指を一本立てる。

「それが、この『エーテル結晶』です!」


慧が悪戯っぽく笑うと、一枚の画像が表示された。

それは、淡い紫色の光を放つ、美しい結晶体の写真だった。

「これは?」

「20年前の大災害以前、旧世界のいくつかの地域で極稀に採掘されたと言われる、伝説の鉱石です。この結晶は、周囲の魔素を凝縮し、極めて純粋なエネルギー体へと昇華させる性質を持っています。いわば、『超高純度の使い捨てバッテリー』ですね!」

「バッテリー……」

「はい! これを、アリア様が戦闘中に直接摂取することで、体内の生命エネルギーの燃焼効率を、爆発的に高めることができるんです! おそらく、全力戦闘の時間を、今の数倍……数分単位で延長させることが可能になるでしょう!」


それは、僕が求めていたものだった。根本的な解決にはならなくとも、絶体絶命の状況を覆すための「あと一手」を、確実に生み出せる切り札。

だが、話がうますぎる。

「……そんな都合のいいものが、簡単に見つかるのか?」

僕の疑問に、慧は待ってましたとばかりに頷いた。


「もちろんです! 私の調査によれば、この第七区画の、とある場所に、このエーテル結晶が未採掘のまま眠っている可能性が、極めて高いです!」

慧は、第七区画の地下に広がる、旧世界の地下鉄網の地図を表示させた。

「大災害で放棄された、旧地下鉄『銀龍線』。その最深部にある、今は水没した駅のホーム。そこに、高濃度のエネルギー反応が確認されています。おそらく、エーテル結晶の鉱脈でしょう」

「……なぜ、そんな情報を」

「ふふん。私は電子の魔女ですから。この街のありとあらゆるセンサーや、地質調査データにアクセスすることなど、お茶の子さいさいですよ」


だが、慧はそこで、少しだけ真面目な顔になった。

「ただし、アリア様。この『切り札』には、相応のリスク……いえ、苛烈な『副作用』が伴います」

「副作用?」

「はい。エーテル結晶がもたらすのは、いわば強制的なオーバードライブ。身体の限界を超えて、生命エネルギーを前借りするようなものです。その効果が切れた時、アリア様の身体には、凄まじい反動が襲いかかります」


彼女は、深刻な表情で続けた。

「おそらく、効果が切れた直後は、指一本動かせなくなるほどの全身麻痺。意識はあっても、身体が全く言うことを聞かない、完全な無防備状態に陥るでしょう。回復には、丸一日以上の絶対安静が必要になるかと。まさに、最後の最後に使うべき、諸刃の剣です」


指一本、動かせなくなる。

それは、戦いの後、完全に誰かの助けを必要とすることを意味していた。

僕の脳裏に、陽菜の顔が浮かんだ。僕がそんな状態になったら、彼女はきっと……。


(……いや、それでいい)

もし、陽菜や仲間たちを守るための、最後の切り札になるのなら。その後の介抱は、甘んじて受けよう。むしろ、それだけの価値がある。

「……行く」

僕の決意を聞いた慧は、満足げに微笑んだ。

「承知いたしました。では、女神様の新たな剣を手に入れるために、私の方で、最高の舞台をご用意させていただきます。詳細なマップ、侵入経路、そして……万が一の時のための『保険』もね♪」

そう言うと、彼女のホログラムは「では、また!」と手を振り、光の粒子となって消えていった。


静寂が戻ったリビングで、僕はスマホの画面に表示された、地下鉄のマップをじっと見つめていた。

決戦の場所は、決まった。

あとは、このことを、どう陽菜に話すかだ。

絶対に反対されるだろう。だが、これは僕が、僕自身の意志で、手に入れなければならない力だ。

僕は、固く拳を握りしめ、覚悟を決めた。


その頃。

陽菜は、自分の部屋のベッドで、幸せそうな寝息を立てていた。

その腕の中には、いつの間にかクローゼTットから引っ張り出してきた、蓮が残していったパーカーが、ぎゅーっと、大切そうに抱きしめられていた。

彼女は、まだ知らない。

愛しい幼馴染が、自分たちの未来のために、命がけのギャンブルに挑もうとしていることを。


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