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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第41話:女神への報告と、気まぐれな魔女


伊集院翔の退学処分が決定し、学園にひとまずの平穏が戻った日の午後。

僕は、一つのけじめをつけるために、あのコンビニエンスストアを訪れていた。

あの謎のハッカー、相良慧に礼を言い、そして、問いただすために。一体、何者なのか、と。


『ぴろぱぽぱろーん、ぱぽぺぽぽーん♪』

聞き慣れた珍妙な音楽と共に、店内に入る。

だが、カウンターの中に、あのぐるぐるメガネの青年の姿はなかった。代わりに、気だるそうな顔をした別の店員が、僕をちらりと見るだけだ。

「……すみません。先日までここで働いていた、相良慧という者は」

僕が尋ねると、店員は「ああ、相良くんなら、昨日で辞めたよ」と面倒くさそうに答えた。

「何か、伝言を預かっている。『黒いパーカーの、サングラスのお客様へ』ってね」

そう言って、彼はレジの裏から一枚のメモを差し出してきた。そこには、QRコードだけが印刷されている。


僕はメモを受け取ると、すぐに店を出た。そして、人通りのない路地裏へと入り、周囲に誰もいないことを確認してから、スマホを取り出した。

QRコードを読み込むと、特殊なメッセージアプリが起動した。チャットルームには、すでに一人のユーザーが参加している。

ユーザー名は、『エレクトラ』。二つ名は、本物だったらしい。


『お待ちしておりました、アリア様』

チャット画面に、すぐにメッセージが表示された。

僕が『あの件、礼を言う』と打ち込むと、返信は、あのコンビニ店員だった頃のハイテンションなペルソナを完璧に演じていた。

『いえいえ! 女神様のお役に立てたのなら、光栄の至りです! あの愚かな王子様が崩れ落ちる様、最高のエンターテイメントでした!』

『お前は、一体何者だ?』

『私は、アリア様の忠実なるしもべであり、熱烈なファンであり、そして、電子の海を気ままに泳ぐ、ただのクラゲのようなものです』


はぐらかされている。彼女は、自分の正体を明かす気はないらしい。

『なぜ、俺に協力する?』

『この世界は、くだらないルールと、くだらない権力者で満ちている。そんな中、貴方様は現れた。ルールを、力で、意志で、塗り替える事が出来る可能性のある存在。私は、ただ、貴方様の物語を、一番近くで観測したいだけなのです。最高の特等席でね』

その文章からは、コンビニ店員のハイテンションとは全く違う、どこか達観した、冷めた視線を感じた。これが、彼女の「観測者」としての素顔なのかもしれない。


『これからも、何かあれば、サポートさせていただきます。もちろん、私の“気まぐれ”の範囲内ですが。では、また』

『あ、そうだ! 叶いますなら、今度こそ、貴方様の素顔を拝見したいです! 美少女と信じておりますので!』

最後のメッセージは、またあのファンを装ったペルソナに戻っていた。そして、そのメッセージを最後に、彼女はオフラインになった。僕が何度呼びかけても、返信はない。


その頃。第七区画の雑居ビル、サーバーに埋もれた部屋。

相良慧は、チャットウィンドウを閉じると、ふーっと息を吐いた。そして、メインモニターに、今まさに路地裏から出てきたアリアの姿を、近くの車のドライブレコーダー映像から映し出す。

クールな立ち姿でスマホをポケットにしまうアリアを見ながら、慧は、達観した「観測者」の顔で、静かに呟いた。

「これからも、楽しませてくださいね。私の……女神様」

その直後。

彼女は椅子の上で身をよじり、顔を真っ赤にした。

「 アリア様、最高ーっ! メッセージ読んでくれた! 返事くれた! あああ、もう、生きててよかったぁ!」

先ほどまでのクールな表情はどこへやら、そこには、ただの熱狂的なオタク少女の姿があった。

彼女は、その気になれば、アリアと陽菜が暮らすアパートの室内の様子さえ、盗聴器や隠しカメラなしで、電気製品から発せられる微弱な電磁波を解析して覗き見ることすら可能だった。

だが、彼女は決してそれをしない。

(……女神様のプライベートを覗き見るなど、不粋の極み。そんなことをしたら、ファン失格、観測者失格だもの)

それが、彼女なりの矜持であり、アリアへの敬意の示し方だった。


(……気まぐれな魔女、か)

路地裏を出た僕は、スマホをポケットにしまいながら、そう結論付けた。

協力者ではあるが、決して僕の駒ではない。彼女は彼女の意思で、楽しみながら、このゲームに参加している。僕は、その得体の知れなさに、改めて身震いした。


その頃。

街の片隅で、一匹の黒猫もまた、決意を固めていた。

(……アリア。また、面倒事に巻き込まれているみたいね。伊集院? エルロード? 知らない名前だけど、碌なことになっていないのは確かだにゃ)

リリィは、街中の噂や、陽菜たちの会話の断片から、事件の概要を把握していた。

(あの子、昔からそうだった。自分のことには無頓着で、面倒事を引き寄せる天才。放っておいたら、いつか本当に取り返しのつかないことになるにゃ)

リリィが知るアリアは、戦闘以外は驚くほど不器用だった。


(仕方ないにゃあ……。私が、そばで見ていてやらないと)

彼女は、一つの作戦を思いつく。

(あの橘陽菜という少女……私に、かなり懐いているみたいだし……。この愛くるしい肉球と、魅惑のゴロゴロ声を武器にすれば、あの家に『ペット』として潜り込むことなど、造作もないはず……!)

それは、元エリートのプライドをかなぐり捨てた、大胆不敵な潜入計画だった。


「……にゃーん♪(作戦開始だにゃ♪)」

黒猫は、一つ大きく伸びをすると、陽菜がいつも通る道で、最も「拾ってください」とアピールできるベストポジションを探し始めた。


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