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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第38話:断罪の舞台


「ならば、お前のその歪んだ正義ごと、俺がここで裁いてやる」


僕の静かな宣戦布告に、その場の空気が完全に凍りついた。

伊集院翔は、一瞬、何を言われたのか理解できないといった顔をしたが、すぐに屈辱と怒りで顔を真っ赤に染めた。

「……面白い。面白いじゃないか、アリア! この僕に、伊集院翔に、そこまで啖呵を切った者は、お前が初めてだ!」

彼は、もはや優等生の仮面をかなぐり捨て、歪んだ愉悦の笑みを浮かべていた。

「いいだろう! 教官、皆さんもよろしいですね!? この、規律を乱し、上級生に反抗する不届き者を、この場で私が『教育』することを、お許しいただきたい!」

伊集院は、周囲の教官たちに同意を求める。教官たちは、僕と伊集院のただならぬ雰囲気に戸惑いながらも、生徒総代である彼の言葉を無下にはできない。


「……だが、伊集院。演習中の私闘は……」

一人の教官が言い淀んだ、その時だった。

「――許可します」

凛とした、しかし氷のように冷たい声が、スピーカーを通して臨時本部全体に響き渡った。

声の主は、霧島校長だった。

「ただし、それは『私闘』ではありません。『公開査問会』です。アリア特待生、そして伊集院総代。双方の主張を聞きましょう。どちらが、この学園の規律にふさわしい存在か、皆の目の前で、はっきりとさせてください」

彼女の言葉は、伊集院にとって追い風のはずだった。だが、その声色に含まれた底知れない冷たさに、伊集院は微かな違和感を覚える。


(まあ、いい。好都合だ)

伊集院は、すぐに思考を切り替えた。

(皆の前で、この生意気な新人を叩き潰し、橘陽菜共々、再起不能にしてやればいい)


「感謝します、校長先生。では、アリアくん。君の言う『茶番』とやらを、どう説明するのかな? 現行犯で捕縛されたと言うだけでなく、彼女が罪を犯してしまったと言う事を知っている証人や証拠は、沢山あるのだが?」

伊集院は、勝利を確信した笑みで僕を見下ろす。

僕には、証拠も、何もない。あるのは、陽菜が無実だという確信だけ。だが、それだけでは、この状況は覆せない。

(どうする……。何かないのか……)

僕が内心で焦りを感じ始めた、その時だった。


臨時本部に設置された、巨大なメインモニターが、突如として起動した。

「...なんだ?」

僕も、伊集院も、その場にいた誰もが、予期せぬ事態におどろく。


モニターに映し出されたのは――伊集院家の個人サーバーの、ログイン画面だった。

次の瞬間、ログインIDとパスワードが自動で入力され、いとも簡単にログインが完了する。

「な、なんだこれは!? 誰がこんな……!」

伊集院の顔色が変わる。


『――侵入完了。さて、お目当てのファイルは、と……』


スピーカーから、合成音声のような、しかしどこか楽しげな女性の声が響き渡った。

モニターには、彼のPCのデスクトップ画面が映し出され、カーソルが自動で動き、『翔、教育関連ファイル』というフォルダをクリックする。

「や、やめろ! 何をする気だ! 勝手に人のPCを……!」

伊集院が絶叫するが、もう遅い。


フォルダが開かれ、まず、音声データが再生された。

『……次の壁外合同演習で、彼女には退場してもらいます』

『橘陽菜を、加害者に仕立て上げるのです』

伊集院と、彼の父親の、生々しい会話。

その場にいた、全ての生徒、全ての教官が、息を呑んだ。


「ち、違う! これは、何者かによる捏造だ!」

伊集院は必死に叫ぶ。

だが、無慈悲な電子の魔女は、彼に反論の隙を与えない。

モニターには、次々と「証拠」が映し出されていく。

偽の目撃者として買収された生徒たちのリストと、その送金記録。

陽菜に飲ませた薬物の成分データと、それを秘密裏に発注した業者との通信ログ。

そして、極めつけは。

村上が、陽菜の背後で、自身のスキルでターゲットの生徒を焼く瞬間を、様々な角度から捉えた、超小型ドローンの映像。


「…………」

誰もが、言葉を失った。

僕も、このあまりに完璧すぎる援護射撃に、ただ呆然とするしかなかった。

(……なんだ、これは……。一体、誰が……?)

その時、僕の脳裏に、昨夜の出来事が鮮明に蘇った。

あのコンビニ店員からもらったコーヒー豆の袋。家に帰ってから、中から出てきた小さなメモ。

最初は意味が分からなかったが、今なら、その一文一文の意味が、痛いほど理解できる。


『――アリア様。こんな形でメモをお渡しする非礼、何卒ご容赦ください。実は、貴方様が大切にされているであろう、橘陽菜様の身に、明日、危機が迫っております。伊集院翔という愚かな男が、彼女を陥れるための卑劣な罠を仕掛けました。ですが、ご安心ください。奴の計画に関する全ての証拠は、私がすでに掌握しております。明日、もしものことがあれば、私は私のやり方で、貴方様へ最大限のフォローと支援をさせていただく所存です。貴方様は、何も心配なさらず、ただ、貴方様が輝きたいように、その舞台で輝いていただければ、私にとって、それ以上の喜びはありません。また、もしこの働きに感謝いただけるなら、それは望外のご褒美です。叶いますなら、この相良慧を、貴方様の忠実なる“目”と“耳”として、お使いいただければと――』


(……あのメモは、このことだったのか!)

あのぐるぐるメガネのハッカーは、全てを知った上で、僕にこの舞台を整えてくれていたのだ。

僕が、陽菜の無実を証明し、伊集院を断罪するための、完璧な舞台を。


伊集院は、自分の計画が、完璧に白日の下に晒されたことを悟り、顔から血の気が引いていく。

「あ……あ……」

彼は、何が起きているのか理解できず、ただモニターを呆然と見上げるだけだった。


僕は、我に返ると、そんな彼の前に、静かに歩み寄った。

この好機を、この舞台を、無駄にはしない。

「さあ、伊集院翔」

僕は、低く冷たい声で、彼に問いかける。

「これが、君の言う『正義』の正体だ。君は、何を裁く? 誰を、教育する?」


僕は、彼が、陽菜にしたのと同じように、彼を指差した。

「君は、もう終わりだ」


その言葉が、引き金だった。

「う、うわあああああああああああああっ!!」

伊集院翔は、絶叫と共に、その場に崩れ落ちた。

プライドも、地位も、策略も、全てを失った、ただの哀れな少年の姿が、そこにはあった。


逆転の舞台は、幕を閉じた。

僕は、陽菜のもとへ駆け寄りながら、心の中で、まだ見ぬ協力者に感謝した。

(相良慧……。とんでもない奴を、ファンに持ったものだ)

新たな謎と、そして、頼もしすぎる協力者の存在が、僕の心に深く刻まれた瞬間だった。


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