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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第35話:悪意の舞台、開幕


僕、アリアが防衛高校の夜間クラスに入学してから、一週間が経過した。

昼間は陽菜が、夜は僕が同じ校舎に通うという、奇妙な二重生活。

そして、その日は、年に数回行われる『壁外合同演習』の日だった。昼間部と夜間部、全学年が参加する大規模な演習だ。


演習開始前、壁外ゲート前の広場は、生徒たちの熱気でごった返していた。

僕は、夜間部の生徒たちと共に、少し離れた場所で待機していた。ふと視線を向けると、昼間部の集団の中に、友人たちと談笑する陽菜の姿が見えた。彼女も僕に気づき、小さく手を振ってくる。

僕が頷き返すと、陽菜は口パクで「がんばろうね」と伝えてきた。

僕も「お前もな」と返し、静かに拳を握る。この時はまだ、これが穏やかな最後の会話になるなど、想像もしていなかった。


演習内容は、指定されたエリア内の複数のチェックポイントを回り、課題をクリアしていくというもの。チームは、事前にランダムで組まれる。

陽菜は、幸運にも友人たちと同じチームになったと喜んでいた。だが、そのチームに、伊集院の息のかかった生徒が二人、巧妙に紛れ込んでいることを、彼女はまだ知らない。

一人は、陽菜に媚びへつらう、人の良い生徒を演じている少年、高田。

もう一人は、陽菜と同じ、炎系のスキルを持つ、物静かな生徒、村上だ。


演習が開始され、陽菜のチームは順調にチェックポイントをクリアしていく。

「陽菜ちゃん、すごい! さすが学年1位だね!」

「そんなことないよ! みんなのおかげだって!」

和気あいあいとした雰囲気。だが、その裏で、悪意の罠は着々と準備されていた。

最後から二番目のチェックポイントを通過した後の、小休憩。

「みんな、お疲れ様! これ、僕のお母さんが作ってくれた特製のスポーツドリンクなんだ。疲労回復にすごく効くんだって! よかったら飲んで!」

高田が、人の良い笑みを浮かべて、人数分のペットボトルを差し出した。

「え、いいの? ありがとう!」

陽菜は、何の疑いもなく、そのドリンクを受け取って口にした。まさか、自分のボトルにだけ、無味無臭だが、一時的に意識を混濁させ、思考能力を奪う特殊な薬物が混入されているなど、夢にも思わずに。


数分後。

「……あれ? なんだか、頭が、ふわふわする……」

陽菜の足元がおぼつかなくなり、視界が霞み始める。周囲の声が、水の中にいるように遠く聞こえる。

その瞬間を、待っていた。

「――橘さん! なんてことをっ!」

もう一人の手駒――村上が、絶叫した。

彼の腕の中には、気弱で大人しいことで有名な男子生徒が、腕に大火傷を負ってぐったりと倒れていた。その火傷は、明らかに炎系スキルによるものだ。


そして、村上は、朦朧としている陽菜の手を取り、大声で叫んだ。

「みんな、見てくれ! 橘さんが、彼に……! 彼女のスキルで、大火傷を!」

彼は、陽菜が朦朧とした隙に、自身の炎スキルでターゲットの生徒を焼き、その罪を全て陽菜になすりつけたのだ。陽菜の手を掴むことで、あたかも彼女がスキルを発動したかのように見せかけて。

彼の絶叫に、近くにいた他のチームの生徒や、巡回中の教官たちが駆けつけてくる。


そこに、まるでタイミングを合わせたかのように、伊集院翔が颯爽と現れた。

「何があったんだ!」

伊集院は、まず重傷を負った生徒に駆け寄り、心配そうに声をかける。

「しっかりしろ! 今、助けを呼ぶからな!」

そして、彼の耳元で、誰にも聞こえないように囁いた。

「……わかっているな?」

生徒は、恐怖に怯えながら、小さく頷く。


伊集院はゆっくりと立ち上がると、正義のヒーローさながらに、朦朧としている陽菜を指差して断罪する。

「橘さん! いったい、どういうことなんだ! 些細な口論から、仲間を手にかけるなど……君は、そこまで堕ちてしまったのか!」

彼の言葉に、周囲の生徒たちが「え、陽菜ちゃんが?」「嘘でしょ……」と動揺する。

「取り敢えず、彼を医務室へ! いや、壁内の大病院へ緊急搬送だ!」

伊集院の指示で、重傷の生徒は担架で運ばれていく。


「橘さん。あなたには、事情を聞かねばならない。逃がすな! しっかり捕まえておけ!」

伊集院が合図すると、彼の側近である西園寺たちが、陽菜の両腕を乱暴に掴み、押さえつけた。

「……っ! はな、して……なに、が……」

朦朧とした意識の中、陽菜は抵抗しようとするが、力が入らない。訳も分からないまま、信頼していたクラスメイトたちからの非難と侮蔑の視線に晒される。

「連れて行け! そして、目撃者(買収済みの生徒たち)も、一緒に事情聴取室まで来てもらうぞ!」

伊集院は、生徒や教官たちの前で、公正な第三者を装いながら、完璧に事を進めていく。


(ふん……。計画通りだ)

連行されていく陽菜の後ろ姿を見ながら、伊集院は思わず口元に、にやり、と歪んだ笑みを浮かべた。

彼の描いた悪意の舞台は、今、完璧な形で幕を開けたのだった。


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