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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第33話:演習前夜の約束


壁外合同演習の前日。

伊集院たちの悪意がすぐそこまで迫っていることなど露知らず、陽菜はいつも通りの充実した一日を送っていた。

昼休みにはクリスティーナたちと賑やかなランチを楽しみ、放課後は友人たちと自主訓練に励む。彼女の周りには、いつも明るい笑い声が響いていた。


その日の帰り道。陽菜は、いつもの路地裏で、あの金色の瞳を持つ黒猫を見つけた。

「あ、黒猫さん。今日もいたのね」

陽菜が声をかけると、黒猫は「にゃ」と短く鳴いた。だが、今日はどこか様子が違う。その口には、ネズミのような小さな怪異――ラットルを咥えていた。

「あら、狩りの途中だったの? ごめんね」

陽菜が謝ると、黒猫はぷいっとそっぽを向き、咥えていたラットルを陽菜に見せつけるように、塀の上に置いた。

(べ、別に、あんたのために獲ってきたわけじゃないんだからにゃ! こ、これくらいの怪異、私にとっては朝飯前だということを、教えてやろうと思っただけだにゃ! 勘違いするな!)

猫――リリィは、なぜか陽菜に獲物を見せびらかしたくなってしまった自分に、内心で激しくツッコミを入れていた。アリアと同じ世界の匂いがするこの少女に、自分の実力を誇示したくなってしまったのだ。

陽菜は、そんな猫の健気な(?)アピールを「私にプレゼントしてくれようとしてるのかな?」と解釈し、優しく微笑んだ。

「ありがとう。でも、それはあなたのご飯でしょ? ちゃんと食べるんだよ。邪魔してごめんね。また明日」

手を振って去っていく陽菜の背中を、リリィは「ち、違うにゃ……」と呟きながら、複雑な思いで見送るのだった。


家に帰った陽菜は、リビングで僕がコーヒーを淹れているのを見て、ほっとしたように息をついた。

「ただいまー、蓮」

「おかえり、陽菜。お疲れ」

「うん……。明日、いよいよ演習だね。なんだか、ちょっと緊張するな」

「陽菜なら大丈夫だろ。最近、すごく強くなったじゃないか」

「そうだけど……。蓮は、夜間部のチームなんだよね? 離れちゃうの、ちょっとだけ、心配だな」

不安げな陽菜の頭を、僕は(アリアの身体でやるのは少し気恥ずかしかったが)ぽんぽんと軽く叩いた。

「何かあったら、ギルドカードで連絡しろ。すぐに駆けつける」

「……うん。ありがとう、蓮」

僕の言葉に、陽菜は少しだけ安心したように微笑んだ。


その夜、陽菜は僕の背中をマッサージでほぐしてくれた後、風呂場へと向かった。

そして、お決まりの攻防が始まる。

「れーん! 髪、洗ってあげるから早く!」

「……もう、慣れてきたから一人で大丈夫だ」

「だーめ! 明日は大事な日なんだから、私が隅々まで綺麗にしてあげるの!」

もはや、反論の余地はなかった。

結局、その日も僕は陽菜に髪を洗ってもらうことになる。シャンプーの甘い香りと、背中に感じる陽菜の体温。

彼女の指が、僕の髪を優しく梳いていく。その無邪気なスキンシップは、僕の心を安らげると同時に、どうしようもない葛藤を呼び起こす。

(この身体は、女だ。でも、俺の心は……)

陽菜の親密さに、男だった頃の自分が「喜んで」しまいそうになる。そして、今の少女の自分が、ただの「親友」としてそれを受け入れている。そのちぐはぐな感覚が、僕を混乱させる。


「はい、おしまい! 綺麗になったね!」

満足げに僕の髪を洗い終えた陽菜は、先に湯船へと戻っていく。

「蓮も、ちゃんと温まって、明日に備えるんだよ! お互い、絶対に無茶はしないこと。約束だからね!」

「……ああ。約束だ」


湯船に一人浸かりながら、僕は陽菜の言葉を反芻する。

この日常が、僕にとって、何よりも守りたい宝物なのだ。

陽菜の笑顔、彼女との何気ない会話、この温かい時間。その全てを、誰にも壊させはしない。

僕は、胸の内に生まれた確かな決意を握りしめ、明日という日を迎える覚悟を決めた。


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