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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第30話:スパルタ家庭教師と、開花の時

 

 陽菜先生による『蓮くん、ニート脱却計画』が始まってから、数週間が経った。

 僕の生活は一変し、夜は陽菜との奇妙な二人三脚の受験勉強、昼間は復習と時折ギルドの依頼をこなすという、学生と冒険者の二重生活がすっかり板についてきた。


「いいこと、蓮? この数式は、まずこの公式に当てはめて……って、あれ? もう解けてる!?」

「ああ。なんとなく、頭に入ってくるんだ」


 僕にとっては「なんとなく」だが、アリアの脳は、陽菜が説明するより先に教科書の内容を全てスキャンし、理解し、応用問題まで解き終えていた。

 陽菜は最初こそ「蓮、すごい! 天才!」と喜んでいたが、すぐに新たな問題に直面した。


「……だめ。蓮の飲み込みが良すぎて、私の教え方が追いつかない……!」


 陽菜は、うーんと唸りながら、自分の頭を掻きむしった。

 元々、陽菜は地頭が良い方だった。成績も常に上位をキープしている。だが、それはあくまで「普通の高校生」の範疇での話。規格外のスペックを持つ僕に教えるには、彼女自身の知識が追いつかなくなってきたのだ。


「こうなったら、私ももっと勉強しないと! 蓮に負けてられないもん!」


 負けず嫌いな陽菜に、火がついた。

 僕に教えるという目的は、いつしか彼女自身の向上心と結びついていた。彼女は、僕に教えるために自分自身も予習・復習を徹底し、より高度な参考書を読み漁り始めた。「人に教える」という行為は、最も効率的な学習法の一つだ。アリアという最高の生徒(兼ライバル)を得て、陽菜自身の知識はより深く、盤石なものへと整理されていった。


 その相乗効果は、学力だけにとどまらなかった。

「蓮を守る」。その強い意志と、僕に負けたくないという健全な対抗心が、彼女のスキルの精度をも研ぎ澄ませていたのだ。

「……こう、かな? もっと、力を……一点に集めて……!」

 放課後の自主訓練。陽菜の手のひらから放たれる火球は、以前とは比べ物にならないほど凝縮され、凄まじい破壊力を持つようになっていた。


 文武両道で、その輝きを増していく陽菜。

 その姿は、多くの生徒たちの注目を集め、彼女の周りには自然と人が集まり始めた。以前は、ただの「明るくて元気な子」だった彼女は、いつしかクラスの中心人物となり、皆から頼られる存在へと変わっていったのだ。


 そして、僕たちの勉強会が始まってから数週間後。定期試験の結果が、校内の掲示板に張り出された。


「……信じられない。私が、学年1位……?」


 自分の名前が、あの伊集院翔の名前の上にあるのを見て、陽菜自身が一番驚いていた。これまでは、常に2位か3位が定位置だったのだ。

 友人たちが「陽菜、すごい!」「おめでとう!」と彼女の周りに集まり、祝福する。その快挙は、すぐに学内の大きな噂となった。


 そして、その評価は、ある一人の少年の耳にも、当然のように届いていた。


 生徒会室。

 伊集院翔は、西園寺から渡された最新の学内ランキング表を見て、その眉間に深い皺を刻んでいた。


【総合評価ランキング】

 第1位:橘 陽菜

 第2位:伊集院 翔


「……ありえん」


 伊集院の口から、低い声が漏れた。

 これまで、不動の1位だった自分の名前の上に、あの女の名前がある。それも、学力、戦闘能力、そして生徒間での影響力という、全ての項目で、自分を上回る評価を得て。

「クリスティーティーナ嬢に取り入り、ギルドマスターにも覚えがめでたいとか。橘陽菜、いつの間に、これほどの存在になったのですかね」

 西園寺が、淡々と事実を告げる。


「……ぐぬぬぬぬ……!」


 伊集院の整った顔が、嫉妬と屈辱に歪む。

 許せない。許せない。許せない。

 あの女が、俺の上に立つなど。

 あの女が、俺より輝くなど。

 斎藤蓮という目障りな存在がいなくなり、これで陽菜も自分のものになるかと思っていたのに。


「……翔様」

「わかっている」


 伊集院は、ランキング表を握りつぶした。

「……面白い。少し、遊びが足りなかったようだな」


 彼の瞳には、もはや普段の優等生の光はなかった。ただ、邪魔者をどうやって排除するかを考える、冷酷で計算高い策士の光だけが、渦巻いていた。


 陽菜が僕を「ニート」から救い出そうとした、あの夜の奮闘。

 それが、意図せずして彼女自身の才能を大きく開花させ、そして同時に、学園の「王子様」の最も触れてはならない逆鱗に、触れてしまった瞬間だった。

 伊集院の歪んだプライドは、陽菜を新たな「排除すべきターゲット」として、完全にロックオンしたのだった。


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