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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第1章:銀色の夜明け ~始まりと再生~

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第3話:君の名を呼ぶ声

 

 振り下ろされる鉤爪を躱し、ガーゴイルの懐へ。頭の中の「アリアの知識」に従い、眉間の魔石をナイフで砕く。一体目を仕留めた瞬間、確かな手応えと共に、身体の奥から何かがごっそりと抜け落ちていくような奇妙な感覚に襲われた。

「……っ!?」

 なんだ、この疲労感は。まるで全力疾走した直後のようだ。

 アリアの知識が警告を発する。――警告。この世界の魔素マナ濃度は、著しく希薄。身体強化スキルの連続使用は、体力を急激に消耗する。


 つまり、ガス欠か。この身体、とんでもなく燃費が悪いらしい。

 そんなことを考えている暇もなく、二体のガーゴイルが空と陸から同時に襲い掛かってきた。

「くそっ、短期決戦で!」

 僕は地上の一体に向かって突進し、砂煙で目眩し。それを踏み台に空の一体を屠る。アリアの知識通り、完璧な動きだ。だが、一体倒すごとに、心臓が鉛のように重くなっていく。

 残った一体が逃げようとするのを見て、鉄パイプを投擲し、翼を壁に縫い付けた。

「はぁっ…はぁっ…!」

 よろめきながら近づき、最後の一体の魔石を砕く。わずか三体を倒しただけで、立っているのがやっとだった。全身が汗でぐっしょりと濡れ、視界がチカチカと明滅する。


 まずい、早くこの場を離れないと。

 そう思った時、少し離れた通りから、聞き覚えのある声が聞こえた。

「きゃあっ!」

「陽菜!」

 思わず叫んで駆け出す。重い身体に鞭打って角を曲がると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 数体のガーゴイルに囲まれ、必死に小さな火球で応戦する陽菜の姿があったのだ。スタンピードからはぐれ、ここまで逃げてきたのだろう。彼女の周りには、すでに倒されたゴブリンが数体転がっている。だが、ガーゴイル相手では分が悪すぎた。


「させるか…っ!」

 陽菜の背後から、一体のガーゴイルが爪を振り下ろす。

 もう身体強化スキルを使う余裕はない。純粋な身体能力と、アリアの技術だけで切り抜けるしかない。

 僕は最後の力を振り絞って地面を蹴った。

 陽菜とガーゴイルの間に滑り込み、ナイフで爪を受け流す。キィン、と甲高い金属音が響き、腕に凄まじい衝撃が走った。

「え……?」

 突然現れた黒いフードの人物に、陽菜が驚きの声を上げる。


「陽菜、下がってろ!」

 そう叫んだ声は、自分でも驚くほど高く、澄んだ少女の声だった。

 だが、陽菜はハッと目を見開いた。

 僕は構わず、受け流した勢いを利用して体勢を回転させ、ガーゴイルの脇腹を蹴りつける。スキルなしでも、この身体のパワーは常人離れしている。

 怯んだ隙に、残りのガーゴイルたちが一斉に襲い掛かってきた。

「数が…多すぎる…!」

 視界が霞む。足がもつれる。アリアの知識が最適解を示しても、身体がもう限界でついてこない。

 それでも、歯を食いしばってナイフを振るう。陽菜だけは、絶対に守らなければ。


 一体の攻撃を躱した瞬間、別の爪が肩を掠めた。パーカーが裂け、鋭い痛みが走る。

「ぐっ…!」

 よろめいた僕を見て、陽菜が叫んだ。

「危ない!」

 彼女が放った渾身の火球が、僕に迫っていたガーゴイルに命中し、その動きを止める。

 その援護を無駄にはしない。

 よろめきながらも踏み込み、怯んだガーゴイルの眉間を貫く。

 だが、それが限界だった。

 残りのガーゴイルが、無防備になった僕に迫る。

「…ここまで、か…」

 皮肉なものだ。せっかく陽菜に再会できたのに、また彼女の目の前で死ぬなんて。


 その時だった。

「その動き…その戦い方…嘘…」

 陽菜が何かを呟いたかと思うと、震える声で叫んだ。

「――れん?」


 えっ!?

 なんで、わかったんだ? 声も、背格好も、全く違うはずなのに。


 その一瞬の動揺が、張り詰めていた最後の糸を切った。

 僕の身体から急激に力が抜け、意識が遠のいていく。

 だが、残っていた二体のガーゴイルの鉤爪が僕に届くことはなかった。

「蓮から、離れなさいッ!!」

 陽菜が絶叫と共に、今まで見たこともないほど大きな火球を放ったのだ。それはガーゴイルの一体に直撃し、その身体を炎に包む。

 もう一体が陽菜に狙いを変えた瞬間、僕は最後の力を振り絞った。

 無意識だった。身体が勝手に動いていた。

 地面の小石を拾い、指で弾く。ただの石ころが、身体強化の残りカスを乗せて弾丸と化し、ガーゴイルの眉間に突き刺さった。


 魔石は砕けなかったが、致命的な一撃だったらしい。ガーゴイルは苦悶の声を上げて墜落し、動かなくなった。

 それを見届けることさえできず、僕の身体は糸が切れた人形のように、陽菜の足元に崩れ落ちた。


「蓮! しっかりして、蓮!」

 誰かの声が聞こえる。ああ、陽菜の声だ。

 温かい腕に抱きしめられる感触。懐かしい、陽だまりのような匂い。

 よかった、無事だったんだな……。

 その安堵感を最後に、僕の意識は完全に闇へと沈んだ。


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