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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第26話:猫談義と訪問者


その日の放課後。

精神的に疲れ果てた陽菜は、脱力しながら家路についていた。

(結局、私のペースにはならなかった……。でも、同居のことは絶対に秘密にしてもらわないと……)

そんなことを考えていると、道端で、例の金色の瞳を持つ黒猫が、塀の上でうにゃーっと伸びをしているのが見えた。

「あ、黒猫さん」

陽菜は、ふらふらと猫に近づいていく。

「よーしよしよし。お前は可愛いねぇ」

陽菜は屈み込み、その黒猫の顎の下を、こしょこしょと優しく掻いてやった。


(なっ……!?)

猫――リリィは、陽菜の接近に気づき、すぐに逃げようとした。だが、陽菜の指が顎に触れた瞬間、身体から力が抜け、抗いがたい快感が全身を駆け巡った。

(あ、なぜだ……さ、逆らえんにゃ……。ご、ごろごろごろ……。き、気持ちいいにゃー……)

リリィは、冒険者としての警戒心も、賢者としてのプライドも忘れ、ただひたすらに陽菜の指先の愛撫に身を委ねていた。

(はっ! この匂いは……アリアの匂いがする……。でも、そ、そこ……あぁ……この子、だめだわ……逃れられないにゃ……)


「うん。猫ちゃん、そろそろ帰るね。お前は本当に可愛いねぇ」

陽菜は、満足するまで猫を撫で回すと、名残惜しそうに立ち上がり、手を振って去っていった。


(……ん! はっ!)

陽菜の姿が見えなくなった後、リリィは電撃に打たれたように、がばっと身を起こした。

(な……わ、私としたことが! 快楽に身を委ねるなどっ! この橘陽菜という少女、何か得体のしれないスキルを持っているに違いない! け、警戒レベルを最大に引き上げないと……フーッ!)

リリィは、一人(一匹)で毛を逆立て、陽菜が去っていった方向を威嚇する。


だが、その緊張も長くは続かなかった。

(……。あれ? そういえば、さっき、何か気になったことがあったような……。なんだったかにゃぁ……?)

数秒前の危機感も、陽菜から感じ取ったアリアの匂いのことも、気持ちよかった顎の感触に上書きされ、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。


どうやら、この元エリートの猫は、少し忘れっぽいらしい。

リリィは、ふぁ〜、と大きなあくびを一つすると、再び塀の上で丸くなり、うとうとと微睡み始めたのだった。


「ただいまー……」

陽菜がアパートのドアを開けると、コーヒーのいい香りが漂ってきた。リビングでは、アリアが、例の高級スイーツを前に、上機嫌でコーヒーを淹れているところだった。

「おかえり、陽菜。疲れた顔してるな」

「もう、疲れたよー……」

陽菜はソファにどさりと座り込むと、今日あった出来事を蓮に話し始めた。


「……というわけで、同居してること、バレちゃった」

「は!? なんでだよ!?」

「セバスチャンさんが尾行してたみたい……」

「あの執事……!」

蓮は、ギルドマスターとの模擬戦よりも厄介な相手だと認識を改めた。


「でも、絶対秘密にするって約束してくれたから、大丈夫だと思う。それでね、今度、三人でお出かけすることになったの」

「……それも、気が重いな」

「うん……。それで、クリスティーナ先輩が『お宅にお邪魔したい』って言い出して……」

「却下だ」

蓮は即答した。

「だよね。私も断ったんだけど……。でも、蓮」

陽菜は、少し真剣な顔で蓮を見た。

「私、クリスティーナ先輩のこと、悪い人じゃないと思うんだ。ちょっと強引だけど……。蓮がアリアとして生きていくなら、あんな有力者の友達がいても、悪くないんじゃないかなって」

「……」

確かに、陽菜の言う通りだ。クリスティーナは厄介だが、エルロード商会の後ろ盾は、僕たちの身を守る強力な盾になり得る。


「……まあ、お出かけくらいなら、付き合ってもいい。だが、家はダメだ。絶対に」

「うん、わかった!」

陽菜は、蓮が納得してくれたことに安堵の息をついた。


「そういえば、今日、帰りに可愛い黒猫がいたんだよ」

陽菜が話題を変える。

「すごく人懐っこくて、撫でたらゴロゴロ言ってさー」

「黒猫? 金色の目の?」

「え? そうそう! 蓮も知ってるの?」

「ああ。この前、コンビニの近くで見た。俺が手を伸ばしたら、さっと逃げられたけどな」

「えー? 私にはすり寄ってきたのに。蓮、もしかして猫に嫌われてる?」

「うるさいな」

僕たちは、顔を見合わせて笑った。

クリスティーナのこと、セバスチャンのこと、そして、僕たちの未来のこと。

不安なことは山ほどある。けれど、こうして陽菜と笑い合っていられるなら、きっと大丈夫だ。


僕たちは、淹れたてのコーヒーと高級スイーツを味わいながら、束の間の穏やかな時間を過ごした。外の世界の嵐が、すぐそこまで迫っていることも知らずに。


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