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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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【間話】電子の瞳が見た真実


相良慧は、アリアから貰ったサイン色紙を、部屋に設えた祭壇の中央に恭しく飾っていた。

「はぁ……アリア様……。なんて美しいサイン……。一文字一文字に、揺るぎない魂の強さが宿っている……」

彼女はうっとりと色紙を眺め、至福のため息をつく。

あの日、ガーゴイルを圧倒的な力で殲滅した、謎の冒険者。その存在に、慧は強く惹かれた。この腐った世界に舞い降りた、本物のヒーロー。

だが、あのコンビニでの邂逅は、彼女に新たな疑問を投げかけていた。

(あんなにクールで孤高なアリア様が、私のサインの求めに、少しだけ……困ったように応じてくださった。あの時、サングラスの奥の瞳は、確かに優しさに揺れていた気がする……)

もっと知りたい。あの方の、本当の姿を。


慧は、自分の「聖域」であるコントロールチェアに深く腰掛けると、ヘッドセットを装着した。

「……さて、今日も女神様の『お散歩』を、見守らせていただきましょうか」

彼女は指先を躍らせ、第七区画に張り巡らされた監視カメラのネットワークに、意識をダイブさせる。

アリアがよく立ち寄るコンビニ周辺、ギルドへの道、そして、時折佇む路地裏。複数のカメラ映像を同時に監視し、アリアの姿を探す。


しばらくして、慧のモニターの一つが、路地裏の奥で動きを捉えた。

そこにいたのは、アリアだった。黒いフードに、マスク、サングラス。いつもの姿だ。

だが、様子が少しおかしかった。彼女は、壁にもたれかかり、ぐったりと座り込んでいる子供に、何かを話しかけているようだった。

慧は、すぐさまそのエリアの集音マイクの感度を最大まで引き上げた。


「……大丈夫か?」

アリアの、低く抑えられた声。

「……おかあさんが、かえってこないの。おなかすいた……」

泣きじゃくる幼い少女の声。どうやら、迷子のようだ。周りには人通りもなく、少女は完全に途方に暮れていた。

アリアは、しばらく黙って少女を見つめていたが、やがて自分のサバイバルバッグから、小さな包みを取り出した。

それは、クリスティーナからもらった高級菓子の一つ、栄養価の高いナッツがふんだんに使われた焼き菓子だった。

「……これを食べろ。少しは、元気になる」

「……いいの?」

「ああ。だが、人から物をもらう時は、もっと警戒しろ。俺だから良かったが、悪い奴もいる」

アリアは、ぶっきらぼうに言いながらも、お菓子を少女の小さな手に握らせた。そして、自分の水筒から水を注ぎ、それも差し出す。

少女が夢中でお菓子を頬張るのを、アリアはただ静かに見守っていた。


(……アリア様……)

慧は、その光景に胸を打たれる。

ただ強いだけではない。不器用だが、確かな優しさを持っている。

だが、次の瞬間、慧の全てのモニターに、緊急警報が赤く点滅した。

『警告:対象エリアに、未確認の怪異反応。タイプ:ステルス型』

アリアがいた路地裏の空間が、陽炎のように歪み、一体の怪異が姿を現した。カマキリのような鎌を持ち、カメレオンのように周囲の景色に溶け込む、厄介な奇襲型の怪異――シャドースライサーだ。


「きゃあああっ!」

少女が悲鳴を上げる。

シャドースライサーの狙いは、明らかに無防備な少女だった。その凶刃が、少女に振り下ろされる――その刹那。


アリアが、動いた。

今まで見てきたどんな戦闘よりも、速く、鋭く、そして静かだった。

音もなく少女の前に回り込み、振り下ろされた鎌を、サバイバルナイフ一本で弾き返す。火花が散るが、アリアは微動だにしない。

怪異が怯んだ、ほんの一瞬。

アリアは、ナイフを逆手に持ち替えると、流れるような動きで怪異の懐に滑り込み、その心臓部にある魔石を、下から上へと、正確に貫いた。

声もなく崩れ落ちるシャドースライサー。


戦闘は、わずか3秒で終わった。

アリアは、恐怖で震える少女の頭を、一度だけ、ぽん、と優しく撫でた。

「……もう大丈夫だ」

そして、彼女はギルドカードを取り出し、自衛隊の保護課に、匿名で通報を入れる。

「第七区画、第三路地裏に、要保護児童一名。……ああ、怪異は処理済みだ。すぐに来い」

それだけを告げると、アリアは自衛隊が到着する前に、音もなくその場から姿を消した。


「…………」

慧は、ヘッドセットを外し、しばらくの間、呆然としていた。

そして、やがて、その頬に一筋の涙が伝った。


(……ああ、そうか。そうだったのか)

彼女が憧れたのは、ただの「強さ」ではなかった。

圧倒的な力を持ちながら、誰に知られることもなく、名誉を求めるでもなく、ただ、そこにいる弱者を救う。見返りを求めない、真の正義。

そして、その強さの裏に隠された、不器用な優しさ。


(……この方こそ、本物だ)

慧の心は、完全に決まった。

この腐敗した世界で、唯一信じられる光。

自分の持つ、この歪んだハッキングスキルは、この方のために使うべきだ。


「女神様……」

相良慧は、祭壇に飾られたサイン色紙に向かい、深く、深く、頭を下げた。

「この相良慧の全てを懸けて、貴女様をお守りいたします。貴女様の歩む道に、いかなる障害も、塵一つ、残しはしません」


この日、一人の天才ハッカーは、アリアの狂信的な「守護者」となることを誓った。

そして、アリア自身は、自分の何気ない人助けが、後に自分の窮地を救う、最強の「切り札」を生み出したことなど、知る由もなかった。


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