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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第24話:お嬢様の電光石火アプローチ

 

 僕が家でスイーツと格闘している頃、防衛高校では、陽菜が新たな戦いに直面していた。


 昼休み。

 陽菜が友人たちと教室でお弁当を広げていると、その穏やかな時間は、突如として破られた。

「――橘さん! いらっしゃいますこと!?」

 教室の入り口に、凛とした声が響き渡る。

 そこに立っていたのは、燃えるような赤い髪の縦ロール、クリスティーナ・フォン・エルロードその人だった。上級生、それも学園の有名人である彼女の登場に、教室中の生徒たちが息を呑み、一斉に注目する。


「ク、クリスティーナ先輩!? わ、私に何か……?」

 陽菜は、おにぎりを喉に詰まらせそうになりながら、慌てて立ち上がった。

 クリスティーナは、そんな陽菜の様子などお構いなしに、優雅な足取りで彼女の席までやってくると、にっこりと微笑んだ。

「ええ、もちろん。あなたをお迎えにまいりましたのよ、陽菜さん」

「ひ、陽菜さん!? お迎え!?」

 いきなりの名前呼びと、謎の宣言。陽菜と友人たちは、顔を見合わせて困惑する。


「さあ、参りましょう! こんな教室で、無粋な食事などしている場合ではありませんわ!」

 クリスティーナは、有無を言わさず陽菜の手を取った。

「え、え、ちょっ……!?」

 次の瞬間、陽菜の身体は、信じられない力で引っ張られた。

(な、何この速さ!? 走ってるわけじゃないのに、景色が飛んでいく!?)

 優雅な歩みに見えて、その移動速度は明らかに常軌を逸している。陽菜は、なすすべもなく彼女に引きずられるようにして、教室を後にした。


 呆然と見送るクラスメイトたち。

 陽菜の友人の一人が、ぽつりと呟いた。

「……クリスティーナ先輩って、身体強化系のスキルホルダーだったっけ……?」


 陽菜が連れてこられたのは、美しい芝生が広がる学校の中庭だった。

 そして、そこには、信じられない光景が広がっていた。

 いつの間に運び込まれたのか、豪華な彫刻が施されたテーブルと、純白のクロス。その上には、銀食器やクリスタルのグラス、そして見るからに高級そうな料理の数々が並べられている。

 そして、そのテーブルの傍らには、完璧な燕尾服姿の執事、セバスチャンが恭しく控えていた。

(セバスチャン!? なんで学校に!? しかも、このテーブルと料理、どこから出したの!?)

 陽菜のツッコミが、心の中で大渋滞を起こす。この執事、空間収納系のスキルでも持っているのだろうか。だとしたら、最強すぎる。


「さあ、陽菜さん、こちらへ。あなたのために、我が家のシェフに腕をふるわせましたのよ」

 テーブルには、クリスティーナの友人である令嬢たちも、すでに席についていた。まるで、陽菜が来るのを当然のように待ち構えていたかのように。

 陽菜は、完全に包囲された状態で、クリスティーナの隣の席に座らされた。


「さて、陽菜さん。まずは、わたくしたちとのお友達の記念に、乾杯といたしましょう」

 クリスティーナが指を鳴らすと、セバスチャンが寸分の狂いもない動きで、全員のグラスに高級そうなフルーツジュースを注いでいく。

「え、えっと……お友達……?」

「まあ、照れなくてもよろしくてよ。昨日のお茶会で、わたくしたちはもう、心の友となりましたもの」

(なってない! なってないです、先輩!)

 陽菜の悲鳴は、誰にも届かない。


 こうして、陽菜の意思とは全く関係なく、クリスティーナ主催の『陽菜さんとなかよくなろう!ランチパーティー(毎日開催予定)』が、半ば強制的に幕を開けた。

「それでね、陽菜さん。アリア様のことなのですが……」

 早速、本題が切り出される。

「アリア様は、普段どのような鍛錬を? やはり、滝に打たれたりなどして?」

「え!? し、してないと思いますけど……」

「では、好きな色は何色かしら? あの黒いパーカーをお召しになっているということは、きっと黒がお好きなのでしょうけれど、わたくしとしては、ぜひ純白のドレスなどもお召しになっていただきたいのですわ。きっと、月の女神のようにお美しいに違いありませんもの」

(……だめだ、この人、完全に脳内でアリアさん(蓮)を偶像化してる……)

 陽菜は、クリスティーナと令嬢たちの、斜め上に暴走していくアリア像に、眩暈を覚え始めていた。


「あの、先輩……。アリアさんは、そんなにすごい人じゃなくて、もっと、こう……普通なところも……」

 陽菜が、なんとか軌道修正を試みようとした、その時。

 クリスティーナは、陽菜の手を両手でぎゅっと握り、キラキラとした瞳で言った。

「わかりますわ、陽菜さん。あなたは、アリア様の素顔を知っているからこそ、そのギャップに心を奪われているのですね! わたくしも、早くその領域に達したいものですわ!」

「違います!」


 もはや、会話が成立しない。

 陽菜は、助けを求めるようにセバスチャンを見た。だが、セバスチャンは完璧な笑みを浮かべ、優雅にお茶を注いでいるだけだ。彼の忠誠心は、全てクリスティーナにのみ向けられている。

(……もう、だめだ……。蓮、助けて……)

 陽菜は、遠い空を見つめ、心の中で幼馴染の名前を呼んだ。

 

 その頃、アリアは、家で高級スイーツを前に、どの順番で食べるのが最も幸福度が高いか、真剣な一人作戦会議を開いていたことを、陽菜はまだ知らない。

 陽菜の、胃が痛む学園生活は、まだ始まったばかりだった。


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