【エピローグ】そして尋問は続く
アリアと陽菜の姿が見えなくなるまで、優雅に手を振っていたクリスティーナ。
やがて、二人の姿が完全に視界から消えると、彼女はすっと笑みを消し、背後に控える執事に鋭い視線を向けた。
「セバスチャン」
「はっ」
「……後を」
その一言だけで、全てを察したセバスチャンは、音もなく闇に溶けるように姿を消した。
クリスティーナは、抜かりはなかった。
アリアと橘陽菜。あの二人の関係性は、まだ謎だらけだ。遠い親戚? 兄の縁? そんな曖昧な言葉で納得できるほど、彼女は純粋ではなかった。
(あの方の素性を知るには、まず、あの橘さんという方から固めるのが定石ですわね)
一方、僕と陽菜は、そんな追跡の存在など露ほども知らずにいた。
ギルドには、陽菜が僕の『監視兼サポート役』であることを報告済みだ。もはや、人目を気にして別々に帰る必要もない。
「疲れたー……。でも、お菓子たくさんもらえて、ちょっとだけラッキーだったかも」
「本当だな。陽菜、半分こだからな」
「わかってるって!」
そんな軽口を叩きながら、僕たちは並んで歩き、アパートの一室へと吸い込まれていった。僕たちの「家」へと。
しばらくして、クリスティーナのもとに、セバスチャンからの報告が届いた。
「――お嬢様。ご報告いたします。アリア様と橘様は、第七区画の、とあるアパートの一室へ。……間違いなく、同じ部屋に帰宅されました」
「……まあ」
セバスチャンの報告を聞いたクリスティーナは、思わず自分の頬に手を当てた。そこが、カッと熱くなっているのを感じる。
(一緒に……暮らして……いらっしゃる……?)
親戚だから? それとも……。
彼女の思春期の脳裏に、様々な想像が花開く。
「アリア様と……橘様とは、一体、どのようなご関係なのでしょうか……。ああ、いけませんわ、クリスティーナ。淑女たるもの、他人のプライベートを邪推するなど……。けして、その……よ、横恋慕のような、破廉恥な関係などでは、断じてありませんわ! ええ、きっとそうですとも!」
一人でぶつぶつと呟き、首をぶんぶんと横に振る。
「でも……ふふふ。気になりますわぁ……」
指を組んで、うっとりと考え込む。
「橘様……彼女だけが、アリア様の素顔を知っている……。独り占めは、よくありませんわ。ええ、決して」
彼女は、窓の外に広がる夜景を見つめ、新たな決意を固めた。
「早速、明日から……橘様と仲良く、……ん、んんっ! 仲間に、入れていただかなければ!」
「……お嬢様。品格は、落とさずに、でございますよ」
いつの間にか戻っていたセバスチャンが、そっと紅茶を差し出しながら、静かに釘を刺す。
「セバス! わ、わかっておりますわっ!」
クリスティーナは顔を真っ赤にしながら、紅茶のカップを受け取った。
僕たちの平穏な(?)日常に、クリスティーナという名の、甘くて厄介な嵐が本格的に、そして個人的な興味を伴って接近していることを、僕たちはまだ、知らなかった。




