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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第22話:尋問(ティーパーティー)は煌めいて


僕たちがクリスティーナに案内された席は、まさに彼女の隣、全ての注目が集まる特等席だった。

もし、今日ここに来たのが僕、アリア一人だったら、展開は少し違ったのかもしれない。

フェイスマスクを外し、「あら、アリアさん、噂に違わぬお可愛らしい方ですこと」などとチヤホヤされながら、美味しいお菓子を食べて、それで終わりだったかもしれない。


だが、現実は違う。僕の隣には、陽菜がいる。

正体不明でミステリアスな、Cランク冒険者アリア。そして、そのアリアが「縁がある」と語った、ごく普通の制服姿の後輩、橘陽菜。

この組み合わせが、好奇心旺盛な少女たちの心を刺激しないはずがなかった。


「さあ、まずはわたくしの友人たちをご紹介しますわ」

クリスティーナが僕たちを紹介すると、彼女の取り巻きである令嬢たちが、次々と僕たちのテーブルに集まってきた。

彼女たちの瞳は、きらきらと輝いていた。いや、獲物を見つけた肉食獣のように、ギラギラと、そしてワクワクと、僕と陽菜を射抜いていた。


「まあ、あなたが噂のアリア様! クリスティーナ様から、お話は伺っておりますわ!」

「そして、こちらが橘さんですのね? アリア様とは、どういったご関係で?」


来た。挨拶もそこそこに、単刀直入な質問が飛んでくる。根掘り葉掘りタイムの、レッツゴースタートだ。

陽菜は一瞬、身を硬くしたが、すぐに練習通り(?)の笑顔を浮かべた。

「あ、えっと、アリアさんとは、その……遠い親戚、みたいな……。兄がお世話になっていて……」

しどろもどろだが、事前に打ち合わせた設定だ。

だが、令嬢たちはそんな曖昧な答えで引き下がるはずもなかった。


「まあ、親戚! 素敵ですわね! では、アリア様は普段、どんな生活をなさっているの? 好きな食べ物とか、趣味とか、おありになるのかしら?」

質問の矛先は、すぐに僕にも向けられる。

僕は黙って首を振ることで、全ての質問をやり過ごそうとした。

その沈黙を見て、質問した令嬢はハッとしたように、慌てて手を振った。


「あ、ああ、ごめんなさい! 不躾な質問をしてしまって! 答えにくい内容でしたら、お答えにならなくてもよろしくてよ。簡単にお答えいただけるとは思っておりませんでしたので」

彼女はそう言って一歩下がる。だが、その目は諦めていなかった。

「で、でしたら、少し……せ、せめて、あ、握手などは……していただけませんでしょうか……?」

彼女がおずおずと手を差し出すと、それを皮切りに、周りの令嬢たちも「わ、わたくしも!」「ぜひ!」と色めき立つ。

(……握手会が始まってしまった)

僕は仕方なく、一人一人と無言で握手を交わす。そのたびに「きゃー♪」「手が……細くて綺麗……」「ひんやりして気持ちいいですわ……」などという歓声が上がり、僕は精神的にどんどん疲弊していった。


戦場は、陽菜の方へと移る。

「ねえ、橘さん。アリア様は、あんなに強いのに、あなたといる時はどんな感じですの?」

「あなただけが知っている、アリア様の意外な一面とか、教えていただけないかしら?」

「お二人は、いつもご一緒なのですか?」


矢継ぎ早に繰り出される質問の嵐。陽菜は、背中に冷や汗をかきながらも、必死で応戦していた。

「え、えっと、アリアさんは、いつもはとても物静かな方で……でも、とても優しくて……」

「意外な一面、ですか? あー……実は、甘いものがお好き、とか……?」

陽菜が僕をちらりと見る。僕は、テーブルに並べられたモンブランのケーキに釘付けになっていた。それを目撃した令嬢たちが、「まあ!」と再び色めき立つ。

「なんてギャップですの!」「可愛すぎますわ!」


(陽菜……! 余計なことを……!)

僕が内心で叫んでも、もう遅い。

僕の前には、次々とケーキやクッキーが「どうぞ、アリア様!」と差し出される。僕はそれを、フェイスマスクを少しだけずらし、誰にも顔を見られないようにしながら、すごい勢いで口に運ぶしかなかった。美味しい。とても美味しいが、全く味わっている余裕がない。


陽菜は、僕の援護(?)をしつつも、令嬢たちの猛攻にだんだんと追い詰められていく。

「お二人の出会いは、どちらで?」

「アリア様の素顔、ご覧になったことは?」

「もしかして、お二人は……そ、そういうご関係でして……?」


最後の質問は、さすがに聞き捨てならなかった。

僕が何か言う前に、陽菜が「違います!」と声を張り上げた。

「アリアさんは、私にとって、お兄ちゃんみたいな……ううん、お姉ちゃんみたいな……とにかく、大切な家族みたいな人なんです!」

必死の形相で言い切った陽菜の言葉に、令嬢たちは「まあ……」と、今度は同情的な、それでいてさらに興味を掻き立てられたような視線を向けてくる。


クリスティーナ自身も、最初は優雅に紅茶を飲んでいたが、友人たちの勢いに乗せられ、いつの間にか尋問の輪の中心にいた。

「そうですわ! 橘さん、そこを詳しくお聞かせ願えませんこと? わたくしも、アリア様のこと、もっともっと知りたいのです!」

彼女が身を乗り出したことで、場の空気は最高潮に達する。陽菜の顔は、もう真っ青だ。


その時だった。

クリスティーナの背後に、すっと影のように現れたセバスチャンが、彼女の耳元で静かに囁いた。

「お嬢様。少々、問い詰めすぎのように思われます。アリア様と橘様を、あまりお困らせになりませんよう。……お嫌われたくは、ないのでしたら」


「――はっ!」


セバスチャンの言葉に、クリスティーナは我に返った。

彼女は、自分がどれだけはしたない振る舞いをしていたかに気づき、カッと顔に血が上るのを感じた。そして、困り果てている陽菜と、ひたすらスイーツを口に運んでいる(ように見えるが、明らかに疲弊している)アリアの姿を見て、慌てて咳払いをした。


「み、皆さん! 少し落ち着きになって! お二人が困っておりますわ!」

彼女は場の空気を一変させると、陽菜に向き直り、申し訳なさそうに頭を下げた。

「橘さん、ごめんなさいね。わたくしたち、つい夢中になってしまって……。失礼なことばかり伺ってしまいましたわ」

「あ、い、いえ……」

突然の謝罪に、陽菜は戸惑うばかりだ。


クリスティーナは、今度こそ、心からの誠実な笑みを浮かべた。

「もし、何か困ったことがあったら、いつでもわたくしを頼ってくださいまし。これは、社交辞令ではありませんわよ。今日のことは、その……困らせてしまったお詫び、ということで」

そして、彼女は僕の方を向いた。

「アリア様も、申し訳ありませんでした。よろしければ、この後、お土産に今日のお菓子をいくつかご用意させますので、ぜひお持ちになってくださいね」


彼女の真摯な態度に、取り巻きの令嬢たちも「わ、わたくしたちも、はしたないことを……」「申し訳ありませんでしたわ」と、顔を赤らめて謝罪し始めた。

ようやく、嵐は過ぎ去ったのだ。


その後のお茶会は、打って変わって和やかな雰囲気で進んだ。

令嬢たちは節度を保ち、僕や陽菜に当たり障りのない話題を振るだけになった。

やがて、お開きの時間となる。


帰り際、クリスティーナは僕たちを門まで見送りに来てくれた。

「今日は、本当にありがとうございました。橘さんも、……その、これからは、学校でもよろしくお願いしますね」

「は、はい! こちらこそ!」

陽菜とクリスティーナは、少しぎこちなく、でも確かに、友人としての第一歩を踏み出したようだった。


僕が、山ほどのお菓子の箱を抱え(セバスチャンが持たせようとしたのを、さすがに自分で持った)、陽菜と二人で帰路につく。

今日の戦場ティーパーティーは、なんとか生き延びることができた。

だが、クリスティーナとの間に、新たな関係性が生まれてしまったことも事実だ。

それが、僕たちの未来にどんな影響を与えるのか。

僕にはまだ、知る由もなかった。


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