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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第18話:指名依頼と甘い誘惑

 

 翌朝、陽菜に見送られ、冒険者ギルドに到着した僕は、早速、依頼完了の報告カウンターでブルックたちの怒声に迎えられた。

 僕が足を踏み入れた途端、すでにカウンターに陣取っていたブルックが、こちらに気づいて手招きする。

「おう、アリア! ちょうどいいところに来た!」

 そして、彼は再びカウンターに向き直り、受付のセラを問い詰めていた。

「だから、ギルドマスターを呼べって言ってんだ! 今回の依頼、どういうことか説明してもらおうじゃねえか!」

 ブルックの怒声が、ホールに響き渡る。

「飛竜の生態調査だと? 蓋を開けてみりゃ、Aランク級の討伐任務だ! しかも三頭だぞ! 俺たちが死んでも、ギルドは知らんぷりだったってわけか!」

 彼の隣で、ジンも腕を組んで鋭い視線をカウンターに向けている。昨日とは打って変わって、ギルドに対する怒りを隠そうともしない。


「うわー……。冒険者、怒らせると迫力あるな……」

 僕は、その剣幕に内心ビクビクしながらも、それを悟られぬよう、カウンターから少し離れた場所で腕を組み、クールな立ち姿を装っていた。実際は、ただ固まっているだけだ。

 そんな僕の様子を、受付嬢のセラたちは遠巻きに見て、ひそひそと囁き合っていた。

「見て、アリア様……。荒ぶるブルックさんたちの前でも、全く動じてないわ……」

「なんてクールなのかしら……! まるで、嵐の中の灯台みたい……!」

「昨日から、ファンクラブの会員が30人を超えたらしいわよ……!」

(……ファンクラブ?)

 僕の知らないところで、何やらアイドル化計画のようなものが進行しているらしい。今はそれどころじゃないが。


 やがて、奥から姿を現したギルドマスターは、ブルックたちの剣幕にも全く動じることなく、余裕の表情を浮かべていた。

「まあまあ、ブルック。落ち着け。お前たちが無事に戻ってこれたのが、何よりの証拠だろう?」

「そういう問題じゃねえ!」

「報酬は弾んだはずだ。それに、今回はエルロードのお嬢様のご意向だ。俺としても、断れる立場ではなかった。その代わり、最高の護衛として、お前たちと……アリアをつけた。結果、全員生還。何の問題がある?」

 ギルドマスターが理路整然とブルックをいなし、なんとかその場を収めようとしている。そのやり取りは、しばらく続いた。


 ようやくブルックたちが矛を収め、カウンターが落ち着きを取り戻した頃。

 ギルドマスターは、疲れたように大きなため息をついた。

「……まったく、嵐のような連中だ」

 彼は僕に気づくと、少しだけ顔をしかめて手招きした。

「ああ、そうだ……アリア、お前にも話がある。こっちへ来てくれ」

 僕は、何か厄介事の予感を感じながら、彼の後についていく。

「お前に、指名依頼が来ている。……指名依頼という名の、招待状がな」


 ギルドマスターは、僕を再び執務室へと連れて行った。

 彼はテーブルの上に、一枚の豪奢な封筒を置いた。エルロード家の紋章が、金色の蝋で封をされている。

「今朝、エルロード家の執事がこれを持ってきた。クリスティーナ嬢から、お前への『ご招待』だそうだ」

「……内容は?」

「明後日、エルロード邸で開かれるティーパーティーへの参加要請だ」

「断る」

 僕が即答すると、ギルドマスターは「だろうな」と肩をすくめた。

「だが、聞いてくれ、アリア。これは、ギルドにとってもお前にとっても、悪い話じゃない」

 彼は椅子に深く腰掛け、説得を始めた。


「……というわけだ。頼むから、受けてやってくれ。あのお嬢様のご機嫌を損ねると、後が面倒なんだ……」

「……」

「まあ、そう言うな。ただ、お茶と美味い菓子を食うだけだ。護衛もつける。悪いようにはせん」

 ギルドマスターが差し出してきたのは、王都でも有名な高級店の焼き菓子だった。バターの甘い香りが、僕の鼻腔をくすぐる。


(……気は、進まない)

 だが、僕の脳裏に、斎藤蓮だった頃の記憶が蘇る。甘いものには目がなかった。特に、こういう高級な菓子は、滅多に口にすることができなかった。

 アリアの身体は、甘味を欲しているわけではない。だが、僕の魂が、意識が、目の前の焼き菓子に強く惹きつけられている。

(……お茶会に行けば、これが食べられる、のか……?)


 僕は、しばらく葛藤した。

 冒険者としての矜持。面倒なことへの嫌悪感。そして、抗いがたいスイーツへの欲求。

 天秤が、ゆっくりと後者へ傾いていく。


「……わかった。じゃあ、まあ……受ける」

 僕が渋々(しかし内心少しワクワクしながら)了承すると、ギルドマスターは心底安堵した顔になった。

「そうか! 助かる! 頼んだぞ、アリア!」


 こうして、僕はギルドの力関係と、自身のささやかな食欲によって、クリスティーナのお茶会に参加することが決定した。

 飛竜との戦いよりも、遥かに未知数な戦場へ赴くことが。

 僕は執務室を後にしながら、明後日のティーパーティーで出されるであろうケーキやクッキーに、少しだけ思いを馳せていた。


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