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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第3章:学園の王子と電子の魔女 ~忍び寄る悪意~

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第17話:ただいま、陽菜の待つ部屋へ

 

 リムジンが防護壁の内側に戻り、エルロード商会の地区でクリスティーナたちと別れた後、僕はふらつく足で陽菜の待つアパートの方向へと歩き出した。

 サポート護衛のブルックとジンが「アリア、家まで送るぜ」と心配してついてきてくれたが、アパートが見える数ブロック手前の角で、僕は彼らを呼び止めた。

「ありがとう。ここまででいい」

「おいおい、顔色が紙みたいだぜ? 本当に大丈夫か?」

「ああ。ここからは一人で帰れる」

 これ以上、僕のねぐらに近い場所を知られるのは避けたかった。居場所の秘匿は、基本中の基本だ。

 訝しげな顔をする二人だったが、僕が頑として譲らないのを見て、やれやれと肩をすくめた。

「わかったよ。だが、無茶はすんなよ。お前さんは、もう俺たちのパーティーの大事な『臨時メンバー』なんだからな」

 ブルックはそう言うと、ニッと笑って去っていった。彼らなりの気遣いなのだろう。


 二人の姿が見えなくなってから、僕は周囲を警戒し、陽菜の待つアパートへと滑り込んだ。

 ガチャリ、と鍵を開けて部屋に入った瞬間、僕の身体を支えていた最後の気力が、ぷつりと切れた。

「……ただいま」

 か細い声を絞り出し、僕は玄関に倒れ込むようにへたり込んだ。


「蓮!? おかえり! って、きゃあ! 大丈夫!?」

 奥の部屋から駆けつけてきた陽菜が、僕の姿を見て悲鳴を上げる。

「すごい疲れた……。もう、一歩も動けない……」

「もう、無茶ばっかりして! とにかく、早く中に入って!」

 陽菜は、僕の腕を自分の肩に回し、半ば引きずるようにして部屋の中へと運んでくれた。そのままリビングのソファにどさりと下ろされる。

 僕は、泥のように重い身体をソファに預け、浅い息を繰り返すことしかできなかった。


「ひどい顔色……。それに、服もドロドロじゃない。ちょっと待ってて、今お風呂の準備するから!」

 陽菜はそう言うと、パタパタと忙しなく走り回り始めた。

 僕がぼんやりと天井を眺めていると、やがて陽菜が戻ってきて、僕の前に屈み込んだ。

「蓮、立てる? 私が服、脱がせるの手伝うから」

「……え」

「え、じゃないでしょ! そんなフラフラで、一人でできるわけないじゃない! ほら、腕上げて!」

 陽菜は有無を言わさぬ口調で言うと、僕のパーカーに手をかけた。その顔は、心配で真剣そのものだ。

 僕に抵抗する力は残っていない。されるがままに、パーカーとインナーを脱がされ、汗で汚れた身体を、陽菜が温かいタオルで優しく拭いていく。

「もう……こんなにボロボロになって……。本当に、心配したんだからね……」

 その手つきは、本当に僕を気遣う、優しいものだった。だからこそ、僕は何も言えなくなってしまう。

 陽菜のシャンプーの甘い香りが、すぐ近くで香る。ドキドキと、心臓が少しだけ速くなるのを感じた。


 風呂から上がり、陽菜の作ってくれた温かいシチューで人心地がついた後、僕はソファでぐったりと横になっていた。

「蓮、こっち向いて」

 陽菜が僕の背後に座り、僕の肩にそっと手を置いた。

「え?」

「マッサージ。筋肉、ガチガチでしょ。身体強化の反動って、そういうのでしょ?」

「……なんで知ってるんだ」

「前に、授業で習ったもん。少しでも、楽になるようにしてあげる」

 陽菜はそう言うと、僕の肩を優しく揉み始めた。

 彼女の小さな手は、驚くほど的確に凝り固まった筋肉のツボを捉え、ほぐしていく。

「……うまいな、陽菜」

「ふふん、でしょ? お母さんの肩も、いつもこうやって揉んであげてるんだから」

 温かい手のひらから伝わる体温と、心地よい刺激に、僕の身体からどんどん力が抜けていく。意識が、気持ちよさで溶けてしまいそうだ。


 陽菜は、僕がリラックスしているのを感じ取りながら、少しだけ嬉しそうにマッサージを続けていた。

 やがて、肩から背中、そして腕へとマッサージは進んでいく。

「……陽菜」

「ん?」

「……ありがとう」

 僕が素直に礼を言うと、陽菜の手が一瞬だけ止まり、そして、さらに優しく僕の身体をほぐし始めた。

「どういたしまして。蓮が、毎日無事に帰ってきてくれれば、私はそれでいいんだから」


 その夜、僕は陽菜の献身的な看病のおかげで、久しぶりに心の底から安らかな眠りにつくことができた。


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