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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第122話:復讐の玉座


背後で、鋼鉄の壁が断末魔を上げる。

セラが奏でる破壊の交響曲が、床を、空気を、俺たちの骨の芯まで震わせていた。その轟音の中を、俺たちは駆ける。ナビゲーションはとうに沈黙し、頼りになるのはリリィの瞳だけだった。彼女の賢者としての直感が、錆びついた通路の闇を切り裂く唯一の光だ。迷いのないその横顔が、この鋼鉄の要塞の心臓部が近いことを告げていた。


やがて行き着いたのは、巨大な円形の空間。

目の前に、分厚いブラストドアが絶壁のように立ちはだかる。

中央には、旧世界のエネルギー公社と思しき紋章が、乾いた血のような錆に覆われていた。むせ返るようなオイルと冷却水の匂いが、鼻の奥をツンと刺す。ここが動力炉――この迷宮の禍々しい心臓。


俺とリリィは、言葉もなく視線を交わし、短く頷く。

扉の両脇に陣取り、深く息を吸い込む。互いの鼓動が聞こえるほどの静寂が、一瞬だけ世界を支配した。

そして、全力を叩きつける。


――ゴォンッ!


鼓膜を突き破る衝撃。分厚い扉が内側から絶叫を上げ、凄まじい勢いで弾け飛んだ。舞い上がったコンクリートの粉塵が視界を真っ白に塗りつぶす。


咳き込みながら顔を上げる。

粉塵がゆっくりと晴れた先に広がっていたのは、人の想像が創りうる地獄だった。


部屋の中央。

巨大な円筒形の動力炉が、地の底から響くような低い唸りを上げ、不気味な青白い光を明滅させている。その周囲を、無数のケーブルやパイプが巨大な生物の内臓のようにとぐろを巻き、時折、脈打つように蠢いていた。


そして、その動力炉の前に。

場違いなほど豪奢な玉座に、一人の男が腰掛けていた。


伊集院権三。


だが、その姿はもはや人間のものではなかった。

身体は歪に膨れ上がり、皮膚は黒曜石のように硬質化している。その表面を、紫色の血管が網の目となって浮かび上がり、動力炉の光を受けて不気味に脈打っていた。両腕からは無数のチューブが伸び、あの青白いエネルギーを直接その身へと注ぎ込んでいる。

瞳から理性の光は消え失せ、どす黒い復讐の炎だけが、澱んだ水面のように揺らめいていた。


「……よく来たな、小娘ども」


権三の口から漏れたのは、金属を擦り合わせ、獣の咆哮を混ぜたようなおぞましい響き。


「最高の舞台を、整えてやったぞ。お前たちの……最後の舞台をな」


ミシリ、と骨の軋む音を立て、男が玉座から立ち上がる。

三メートルに迫る巨躯。天井に届かんばかりの影が、俺たちを飲み込もうと迫り来る。その圧倒的な威圧感に、喉がカラカラに乾いた。


「……伊集院権三」俺は静かにその名を呼ぶ。「お前のくだらない復讐に、どれだけの人間を巻き込んだ」


「くだらない、だと?」

怪人と化した権三の喉の奥で、空気を震わす笑い声がくつくつと鳴った。

「貴様らに私の何がわかる! プライドを! 地位を! 未来を! 全てを奪われたこの私の絶望がッ!」


絶叫が、動力炉の唸りと不気味に共鳴し、部屋全体を揺るがす。


「全てを失った私には復讐しかないのだ! 貴様らをこの手で八つ裂きにし、その絶望の顔を眺めながら、この世界と共に滅びる! それこそが私の最後の望みよ!」


その瞳は、狂気に完全に呑まれている。

もはや言葉は届かない。


俺たちは、静かにそれぞれの武器を構えた。

陽菜の全身から黄金色の光の粒子が溢れ、荘厳な盾を形作る。

リリィの両手が深紅に染まり、皮膚を突き破って鋭い爪が音もなく伸びた。

そして俺は、ミスリルナイフの冷たい柄を、骨が浮き出るほど強く握りしめる。


「……来いよ、化け物」

俺は、吐き捨てるように言った。


「お前のその歪んだ絶望ごと、終わらせてやる」


復讐の怪物が、天を衝く咆哮を上げた。

最後の戦いの火蓋が、今、切って落とされた。


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