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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第120話:鋼鉄の歌姫(ディーヴァ)


動力炉へと続く、プラントの中枢回廊。

火薬の匂いと金属が焼ける異臭が、狭い通路に充満していた。


遮蔽物のほとんどない一本道。その先から、重武装した傭兵たちが、濁流となって押し寄せてくる。鋼鉄のブーツが床を打ち鳴らす音、下卑た怒号、そして絶え間なく吐き出される銃弾。そこは、まさしく地獄の回廊だった。


「くっ……キリがない!」


ナイフで一体の傭兵の喉を掻き切る。だが、その死体を乗り越え、別の銃口がオレンジ色の火花を散らした。

銃弾が空気を裂く甲高い音。

「きゃあああっ!」

陽菜が悲鳴と共に展開した『陽光の盾』が、着弾の衝撃に激しくきしんだ。光の粒子が飛び散り、度重なるダメージで入った亀裂が、まるで壊れかけたネオンサインのように不吉に明滅する。彼女の顔は蒼白で、魔力の消耗は限界に近かった。


「陽菜、下がれ!」


僕の絶叫と同時、リリィが天井のパイプを蹴り、猫のようにしなやかに敵の背後へと舞った。

だが、傭兵たちも、その奇襲にはとうに慣れていた。

振り返った数人が、獣を狩るような目でリリィを捉え、その小さな身体を壁際へと追い詰めていく。


分断される連携。

削り取られていく体力と魔力。

そして、何より、死の恐怖が集中力を蝕んでいく。

額から流れ落ちる脂汗が目に入り、視界が滲む。肺が焼けるように熱く、呼吸が浅い。

(まずい……このままじゃ、ジリ貧だ)


「――終わりだ、小娘ども!」


傭兵の一人が、勝ち誇った歪んだ笑みを浮かべ、小型のグレネードランチャーを構えた。

漆黒の砲口が、僕たち三人にまっすぐに向けられる。

狭い通路。逃げ場は、ない。


陽菜が、砕け散る寸前の盾を構え、僕の前に立ちはだかろうとする。

壁際のリリィが、最後の力を振り絞って跳躍しようとする。

だが、もう、何もかもが遅い。

世界から音が消え、思考が白く染まっていく。僕の脳裏に、『死』という文字が冷たく浮かび上がった。


全てが終わる、その刹那。


――ドゴォォォォォォンッ!!!!


鼓膜を突き破るような轟音。

僕たちのすぐ横、分厚い鋼鉄の壁が、まるで内側から爆発したかのように外側へと吹き飛んだ。

凄まじい爆風と灼熱の金属片が、僕たちを追い詰めていた傭兵たちを、紙屑のように薙ぎ払う。


「「「な、なんだぁっ!?」」」


僕も、生き残った傭兵たちも、何が起きたのか理解できない。耳鳴りの中、呆然と壁に開いた巨大な風穴を見つめた。

穴の向こう側は、荒れ狂う黒い海。

そして、その嵐と夜闇を背に、一人の女性が、まるで舞台に立つかのように優雅に立っていた。


風に揺れる、フリルのついたエプロンドレス。

その華奢な腕には、彼女の身体ほどもある無骨な対怪異用超大口径ライフル。

煽られた長いポニーテールが、雲間から射す月明かりに、美しくきらめいた。


「――あらあらぁ。皆さん、お困りのようですねぇ♪」


ギルドの受付嬢、セラさんだった。

彼女は、完璧な微笑を浮かべると、瓦礫と化した壁の残骸を、ハイヒールで「こつん」と小気味よく踏み越える。そして、ふわりと僕たちの前に舞い降りた。

その姿は、まさしく絶望の戦場に降臨した、鋼鉄の歌姫ディーヴァだった。


「せ、セラさん!?」

陽菜が、目の前の光景を信じられないといった顔で、その名を呼ぶ。

「はい♪ 皆さんがあまりにも楽しそうだったので、私も混ぜてもらいに来ちゃいましたぁ」

日常の挨拶と変わらない声音。

彼女はそう言うと、巨大なライフルの銃口を、呆然と立ち尽くす傭兵たちへと、ゆっくりと向けた。


「さあ、パーティーの続きを始めましょうか?」


その笑顔は、どこまでも優雅で。

そして、どこまでも無慈悲だった。

僕たちの絶望に、今、一筋の、あまりにも圧倒的な光が差し込もうとしていた。


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