表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/142

第118話:沈黙のチェス盤


メンテナンスドックに、乾いた銃声が木霊する。

しかし、その弾丸が僕たちに届くことはない。


「ぐあっ!」「なんだこいつら!?」


狭い通路、入り組んだ遮蔽物。

そこは僕たち三人の連携を、最大限に研ぎ澄ますための最高の舞台だった。


陽菜が掲げた腕から放たれた『陽光の盾』が、通路を塞ぐように展開する。敵の銃弾がぶつかるたび、壁となった光は柔らかな音を立てて波紋を広げた。

その光が生み出す濃い影の中を、リリィが音もなく滑り抜けていく。壁を蹴り、天井のパイプを掴んで、まるで重力を無視した獣のように。傭兵たちの背後や死角に舞い降りては、その鋭い爪が一閃し、武器を握る腕だけを正確に、かつ無慈悲に引き裂いていく。


肉を断つ鈍い音と、絶叫。

混乱し、陣形が崩壊した敵の群れへ、僕は一筋の銀光となって切り込んだ。


戦闘は、瞬く間に終わった。

数分前までの喧騒が嘘のように、しんと静まり返る。床には白目を剥いて呻く傭兵たちと、無力化された銃器だけが、オイルの匂いと共に転がっていた。

僕たちは、誰一人、傷一つ負っていない。


『……見事です、女神様。第一守備隊、完全に沈黙』

イヤホンから聞こえるエレクトラの声は、どこか楽しげだ。

『ギルドマスターたちの本隊も突入に成功した模様。このまま一気に制圧できそうですね!』

「……ああ」

ナイフの血糊を軽く振って払いながら、僕は呟く。

「思ったより、手応えがなかったな」

手薄すぎる。あまりにも、あっけなさすぎる。

勝利の高揚感の底に、黒い染みのような違和感が、たしかに生まれていた。


それが確信に変わったのは、直後だった。


『――……待ってください』

エレクトラの声から、ふっと余裕が消えた。

『……おかしい。本隊が突入したエリアの生体反応が、ゼロです。もぬけの殻……? まさか……!』


――ガシャァァァァンッ!!!


エレクトラの悲鳴と、背後で分厚いシャッターが落ちる轟音は、ほぼ同時だった。

床が、空気が、凄まじい音圧に震える。

僕たちが今しがた通ってきた潜水艇への唯一の退路が、無情な金属音と共に完全に断たれた。


「なっ!?」

陽菜が息を呑む。

そして今度は、僕たちが進むべき通路の奥から。

ゆっくりと、地を這うように、無数の重い軍靴の音が響いてきた。


ぞろり、ぞろり、と。

闇の中から姿を現したのは、先ほどの守備隊とは比較にならない重武装の兵士たちだった。鈍色の装甲、規則正しく並んだ銃口。その数、目算で五十以上。


その先頭に立つ男を見て、僕の心臓が凍りついた。

パーティー会場で僕たちを追い詰めた、あの強化外骨格の隊長。


「……ようこそ、ネズミども」

ヘルメットの奥で、赤いモノアイがぬらりと光る。くぐもった声が、鋼鉄の通路に不気味に響いた。

「我々の主、伊集院権三様が、お前たちを心よりお待ちかねだ」


脳を殴られたような衝撃。

全ては、罠。

ギルドマスターたちが向かった突入ルートは、もぬけの殻の囮。権三の真の狙いは、大人たちの本隊ではない。

最初から、僕たち――アリア、陽菜、リリィ、この三人だけをこの鋼鉄の迷宮に誘い込み、確実に、そして残酷に狩るための、完璧なチェス盤だったのだ。


『女神様! 通信がジャミングされています! 外部との連絡が……ッ!』

ザザッ、と激しいノイズが走り、エレクトラの声が掻き消されていく。


退路はない。

援軍も来ない。

僕たちは、完全に孤立した。

鉄と硝煙の匂いが充満する巨大な檻の中で、復讐に燃える怪物とその駒たちと、三人きりで。


僕は、陽菜とリリィの顔を見た。

二人の瞳に、恐怖も絶望の色もない。

ただ、静かに、強く、僕と同じ闘志の炎が燃えているだけだった。それだけで、十分だった。


「……上等じゃないか」

口の端が、自然と吊り上がる。

僕は不敵に笑って見せた。


「遊んでやろうぜ。……王様のいない、チェス盤でな」


僕たちの、本当の死闘が、今、始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ