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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第116話:夜明け前の約束


決戦前夜の賑やかな晩餐が終わった後。

クリスティーナ邸の広大な屋敷は嵐の前の静けさに深く沈んでいた。

誰もがそれぞれの部屋で眠れぬ夜を過ごしている。


――深夜、クリスティーナの自室、バルコニー。


クリスティーナはシルクのガウンを一枚羽織っただけで、冷たい夜風の中に立っていた。

眼下に広がる眠りについた街の灯り。それを彼女は女王のような憂いを帯びた瞳で見下ろしている。

「……セバスチャン」

彼女が静かに呟くと背後の闇から音もなく執事が姿を現した。

「わたくしたちの支援は完璧ですわね?」

「はい。アリア様たちが進む道にいかなる障害もございません。わたくしの全てを懸けて保証いたします」

セバスチャンの絶対的な忠誠の言葉。

だがクリスティーナの胸の不安は消えない。

(……それでも不安だわ。戦場では何が起こるか分からない)

彼女はきつく拳を握りしめた。

「アリア様たちを絶対に死なせはしませんわ」

その誓いは夜空の星々だけが静かに聞いていた。


――同時刻。リリィの部屋。


ベッドの上でリリィとちびケイちゃんのホログラムが、空中に投影されたプラントの内部構造図を睨みつけていた。

最後の情報共有。

「……本当にこのルートで間違いないだろうな、魔女」

リリィの金色の瞳が鋭く光る。

「ふふん。私の計算にエラーはありませんよ、賢者様。それよりそちらこそしくじらないでくださいね? あなたの『影渡り』がこの作戦の鍵なのですから」

エレクトラの挑発するような言葉。

「……ふん」

リリィは短く鼻を鳴らした。

口では憎まれ口を叩き合いながらも、その間には互いの能力を認め合ったプロフェッショナルとしての確かな信頼が宿っている。

二つの「裏」の力が決戦の鍵を確かに握っていた。


――そして、僕の部屋。


僕はベッドに腰掛け窓の外に広がる、嵐の前の静かな海をじっと見つめていた。

コンコンと控えめなノックの音。

「……蓮? 入るね」

陽菜がそっと部屋に入ってきた。その手には僕のためだろう、温かいミルクティーのカップが二つ握られている。


彼女は何も言わず僕の隣にちょこんと座った。

二人で言葉もなく窓の外の夜闇を見つめる。

「……怖い?」

僕がぽつりと呟いた。

「……うん。少しだけ」

陽菜は素直に頷いた。

「でも蓮が隣にいるから大丈夫」

そう言って彼女は僕の肩にこてんと自分の頭を乗せてきた。

シャンプーの甘い香り。伝わってくる温かい体温。

僕の心臓がどきりと大きく跳ねる。


「……陽菜には絶対に怪我とかさせないから」

僕が絞り出すようにそう言うと。

陽菜は肩に乗せた頭をそのままに、僕の顔を下から潤んだ瞳で見上げてきた。

「……うん。知ってる」

その顔はほんのりと赤く染まっている。

僕たちは自然と身体を寄せ合い、その視線は絡み合ったまま離せない。

そしてどちらからともなくゆっくりと、顔の距離が近づいていき――。


ゆらっ。

部屋の隅の影が、まるで水面のように揺らぎ、そこからすぅっと音もなくリリィが姿を現した。そして……

「――お二人とも! いつまでいちゃついているのですかっ!」

腕を組みぷんすかと頬を膨らませたリリィの背後から、いつの間にかドアを開けて入って来ていたクリスティーナも、呆れたようなしかしどこか楽しげな顔でひょっこりと顔を覗かせている。


「「「…………っ!!」」」

僕と陽菜は弾かれたように慌てて身体を離した。

「り、リリィちゃん!? ち、違うの、これは!」

陽菜がしどろもどろに謎の言い訳をする。

一方クリスティーナはふふんと扇子で口元を隠し、優雅に言った。

「まあ陽菜さん。決戦前に士気を高めるのも結構なことですわよ? ……わたくしも混ぜていただきたかったですけれど」


リリィはそんな二人をじろりと一瞥すると、ふんと鼻を鳴らした。

「……出撃時刻だ。遅れるなよ、浮かれ者ども」

そう言い残し彼女はさっさと踵を返して、通路を歩いていってしまった。


僕と陽菜は顔を見合わせたまま真っ赤になって、固まっていることしかできなかった。

決戦前の甘酸っぱい空気は不器用な賢者によって、完全にぶち壊された。

だがそのおかげで僕たちの心にあった最後の不安は、どこかへ消え去っていた。


「……行こう」

「……うん!」

僕たちは今度こそ本当に覚悟を決めた。

仲間たちが待つ発進ゲートへと並んで歩き出す。

その背中を夜明け前の最初の優しい光が、照らし出していた。


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