第113話:戦場への誓い
「――その役目、俺たちにやらせてください」
僕の静かな、しかし確信に満ちた声が張り詰めた会議室に響き渡った。
円卓を囲んでいた大人たちの視線が、一斉に僕に突き刺さる。
ギルドマスターがその熊のような巨体を椅子に軋ませ、低い声で言った。
「……アリア。何を言っているか分かっているのか」
その声には怒りよりも、戸惑いの色が濃く滲んでいた。
僕は怯まなかった。
陽菜とリリィも僕の後ろに静かに立ち上がる。三対の真剣な瞳が、大人たちを見据えた。
「分かっています。だからこそ言っているんです。これは俺たちの因縁でもある。俺たちが決着をつけるべき問題だ」
僕の言葉に霧島校長が、銀縁の眼鏡の位置を直しながら冷ややかに言った。
「感情論で戦争はできないわ、アリア特待生。相手はプロの武装集団。あなたたち子供だけで乗り込ませるわけにはいかない」
「その通りだ!」
ギルドマスターも声を荒げる。
「お前たちを死なせるわけにはいかんのだ! 分からんか!」
その声は叱責というよりは、悲痛な叫びに近かった。
大人たちの反対。それは僕たちを想うが故の当然の反応だった。
だが僕たちもまた、引くわけにはいかなかった。
「……危険なのは分かっています」
口を開いたのは陽菜だった。
「でも私たちにしかできないこともあるはずです」
彼女は一歩前に出ると、その手のひらに温かい光を灯した。
「私の『陽光の盾』は銃弾を防ぎ仲間を癒すことができます。正面からの強襲よりもずっと安全に、道を切り開けるはずです」
「……それに」
今度はリリィが静かに続けた。
「奴らのアジトは複雑な構造をしている。警備網も鉄壁だ。だが影がある限り私の前では無意味に等しい」
彼女の足元の影が一瞬だけ不自然に揺らめいた。
「私が誰よりも早く、誰にも気づかれずに中枢への道を、示してやろう」
陽菜の絶対的な防御力。
リリィの唯一無二の潜入能力。
そして僕の全てを貫く突破力。
それは大軍による強襲よりも遥かに、静かで確実な作戦成功への鍵だった。
「…………」
ギルドマスターも霧島校長も、言葉に詰まった。
僕たちの力がこの作戦において極めて有効であることは、彼ら自身が誰よりも理解していたからだ。
だがそれでも頷くことはできない。
子供たちを最も危険な場所へと送り出す。その決断はあまりにも重すぎた。
「危険すぎる……! やはり反対だ!」
「ですがこのままでは膠着状態に!」
会議室は賛成と反対の意見がぶつかり合い、議論は完全に平行線を辿り始めた。
僕たちはただ固い決意の表情で、大人たちの結論を待つことしかできない。
誰もが譲れない想いを抱えたまま、時間だけが刻一刻と過ぎていく。
決戦の時は迫っている。
僕たちの運命は今この部屋の、重い空気の中に委ねられていた。




