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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第110話:私の、戦い方


翌日の早朝。

クリスティーナ邸の中庭は昨日までとは全く違う、澄み切った空気に満ちていた。

陽菜の目に、もう迷いの色はない。そこにあるのは自らの進むべき道を見つけた者の、静かでしかしどこまでも強い意志の光だった。


「――お願いします!」

再び僕とリリィの前に立った陽菜の声には、一点の曇りもなかった。


リリィはそんな陽菜の変化を、金色の瞳を細めて見つめていた。

「……ふん。吹っ切れたようだな、ひよっこ。だが感傷に浸っていられるのも今のうちだけだ」

彼女はその場でしなやかに身を屈め、まるで黒豹のような低い戦闘態勢を取った。

「――今日は本気で行く。死ぬなよ」


模擬戦が再び始まった。

だがその内容は昨日までとは全く違うものだった。

陽菜はもはや闇雲に火球を放つことはしない。

彼女は僕――アリアのすぐ後ろ、半歩下がった位置にぴたりと付いていた。

僕の盾になる。そのただ一点に全神経を集中させて。


リリィが影から飛び出し鋭い爪で僕の死角を狙う。

その僕が反応するよりも早く。

「――させない!」

陽菜の前に炎の壁が出現し、リリィの軌道を阻んだ。


「甘い!」

(そうだ!それでいい陽菜! 迷ってはだめ!)

リリィは空中で身を翻し壁を飛び越え、今度は上空から僕に襲い掛かる。

だがその瞬間。

陽菜が僕の背中をぽんと軽く押した。

「――前!」

その一言だけで僕は陽菜の意図を理解した。

僕は後ろを一切気にすることなく、前方にいるであろう仮想の敵へと全速力で駆けた。


背後でリリィの爪と陽菜の炎がぶつかり合う甲高い音が響く。

完璧な信頼。

僕の背中は陽菜が絶対に守ってくれる。

その確信が僕の動きから、最後の枷を外した。


「……面白い」

リリィの口元に初めて獰猛な笑みが浮かんだ。

だがその金色の瞳の奥には、陽菜の覚悟を試すような厳しい光が宿っていた。

(……そう!それでいいっ! でも覚悟だけじゃだめなんだよ。陽菜、あなた自身の限界を、あなた自身で超えないと!)


「お前のその『盾』がどこまで通用するか!」


彼女は本気になった。

その身体から金色のオーラが立ち上り、そのスピードと攻撃の鋭さがさらに数段階増していく。

もはやそれは模擬戦などではなかった。

本物の死闘。


リリィは心を鬼にした。

(立て、陽菜! 諦めないで! あなたの力はそんなものじゃないはず!)

爪は常に陽菜の急所を紙一重で外れている。だがその一撃一撃は陽菜の心を折るには十分すぎるほどの、プレッシャーと恐怖を与えていた。


陽菜はリリィの嵐のような猛攻を、必死にその身一つで受け止め続けた。

トレーニングウェアは破れ、腕には浅い切り傷がいくつも走る。

それでも彼女は僕の背中から、一歩も引かなかった。


そしてついにその瞬間が訪れた。

リリィがこれまでにないほどの最大の一撃を、僕めがけて放ったのだ。

(さあ、陽菜、あなたの限界を超えて見せて! あなたの、本当の力を!)

それは陽菜の覚悟を問う最後の試練だった。


「――危ないっ!!」

僕が身構えたその時。

僕の前に陽菜が割り込んできた。

彼女は僕を守るように両腕を大きく広げ、その無防備な背中をリリィの攻撃の前に晒した。


「陽菜っ! 馬鹿野郎!」

僕の絶叫。

もう間に合わない。

リリィの爪が陽菜の華奢な背中を、引き裂こうとした――。


その刹那。

陽菜の身体から光が溢れ出した。


それは炎ではない。

温かくて優しくて、全てを包み込むような太陽の光。

光は陽菜の背後で巨大な黄金色の盾を形作った。

リリィの渾身の一撃がその盾に触れた瞬間。

キィンという澄んだ鐘の音のような音と共に、その全ての威力が光の中に吸い込まれるように消えていった。


「……なっ!?」

リリィが信じられないといった顔で目を見開いている。

僕もその光景にただ立ち尽くしていた。

(……やった……! やったんだね、陽菜……!)

リリィの内心に驚愕とそして確かな安堵が広がった。


光の盾はリリィの攻撃を防いだだけではなかった。

その光の粒子が僕とリリィの戦いで負った小さな傷を、そっと癒していく。

温かい。

まるで陽だまりの中にいるような心地よさ。


やがて光がゆっくりと収まっていく。

陽菜は汗だくになりながらもその顔に満面の笑みを浮かべて、僕を振り返った。

「……どう、かな、蓮。……私、ちゃんと、なれたかな」

「……お前の、盾に」


――『陽光の盾』。

彼女だけの唯一無二の力が開花した瞬間だった。


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