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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第109話:君だけの光


陽菜が一人で屋敷を飛び出してから数時間が過ぎた。

夜の帳が下り、クリスティーナ邸の庭には虫の音が静かに響いている。

僕は心配そうに窓の外を見つめるクリスティーナと、落ち着きなく部屋をうろつくリリィに「少し探してくる」とだけ告げて、一人夜の街へと歩き出した。


どこへ行ったのか見当はついていた。

僕たちがまだ「斎藤蓮」と「橘陽菜」だった頃。喧嘩したり落ち込んだりした時、いつもどちらからともなく向かう場所があった。

アパートから少しだけ歩いた先にある小さな公園。

僕たちの秘密の隠れ家のような場所。


公園の入り口に立つと案の定、その姿はすぐに見つかった。

ぽつんと灯る街灯の下、ブランコに陽菜が一人小さく座っていた。

膝を抱え俯いたその背中は、あまりにも頼りなく見えた。


僕は音を立てないようにゆっくりと、彼女の隣のブランコに腰を下ろした。

ぎぃとブランコが錆びた音を立てる。

陽菜の肩がびくっと小さく跳ねた。

彼女は顔を上げない。ただ俯いたままぽつりと呟いた。

「……なんで来たの」

「……お前が一人で泣いてると思ったから」

「……泣いてない」

その声は涙でくぐもっていた。


沈黙が流れる。

僕たちは言葉もなくただ静かに、夜空を見上げていた。

星が綺麗だった。


やがて僕が口を開いた。

「……今日の模擬戦のことか?」

「…………」

陽菜は何も答えない。それが何よりの肯定だった。


「……お前は強いよ、陽菜」

僕の言葉に陽菜の肩が再び震えた。

「……嘘つき。私、全然強くなんかない。蓮やリリィちゃんみたいに戦えない。才能がないんだもん」

「ああ、そうだな」

僕はあっさりとそれを認めた。

「え……」

陽菜が驚いたように顔を上げる。その瞳は涙で真っ赤に腫れていた。


僕はそんな彼女の目をまっすぐに見つめ返した。

「お前は俺やリリィみたいに、敵を倒す必要はないんだ」

「……どういうこと?」

「俺は矛だ。リリィもそうだ。俺たちは敵を貫き倒すことしかできない。でもそれだけじゃ戦いには勝てない」

僕は自分のアリアの華奢な手を見つめた。

「俺たちの背中はがら空きだ。どんなに強い矛も背中から刺されたら簡単に折れる。……俺たちは守ってくれる誰かがいないと、本当の力は出せないんだよ」


僕は陽菜の小さな手をそっと握りしめた。

「お前の力は誰かを倒すためのものじゃない。……俺たちを『守る』ための力だ」

陽菜の炎。それはただ敵を焼くだけではない。

暗闇を照らし仲間を温め、そして道を切り開く希望の光。


「俺は、お前がいてくれるから戦える。お前が俺の背中を守ってくれるって信じてるから。……だから陽菜。お前は、お前だけの力で、俺たちの最強の『盾』になってくれ」


僕の心からの言葉。

それを聞いた陽菜の瞳から再び涙が溢れ出した。

でもそれはさっきまでの悔し涙ではなかった。

温かくて、そしてとても輝いている涙だった。


「……うん……っ」

彼女は何度も何度も頷いた。

そして僕の手を強く強く握り返してくる。

「……うん……! 私なるよ! 蓮のみんなの最強の盾に、なってみせる!」


月明かりの下、陽菜の顔にようやくいつもの太陽のような笑顔が戻っていた。

僕もつられて少しだけ笑った。

彼女の心に再び光が灯った。

それは誰にも真似できない彼女だけの、優しい光。

その光がやがて僕たちの未来を照らす、大きな希望となることを僕たちはまだ知らなかった。


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