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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第108話:届かない背中


特訓が始まってから一週間が過ぎた。

陽菜は泣き言一つ言わなかった。朝早くから走り込み、夜遅くまで座学に励む。そのひたむきな努力は僕も、そして口の悪いリリィでさえも認めざるを得ないほどだった。


だが努力だけでは越えられない壁がある。

その日の模擬戦闘訓練。

初めて僕とリリィが二人同時に、陽菜の相手をすることになった。


「――始め!」

セバスチャンが涼やかな声で開始の合図を告げる。

その瞬間、僕は地面を蹴っていた。陽炎のように揺らめき、陽菜の死角へと回り込む。

陽菜が僕の動きに反応し、渦を巻く炎の壁を展開した。その判断と速度は一週間前とは比べ物にならないほど鋭い。

だが、その壁が完成するほんの刹那。


壁の向こう側、陽菜自身の足元にできた濃い影の中から、リリィが音もなくにゅるりと姿を現した。


「――なっ!?」

陽菜の驚愕の声。

リリィの鋭い手刀が陽菜の首筋、その薄皮一枚のところでぴたりと止まった。


「……終わりだ」

リリィの静かな声が中庭に響く。

戦闘はわずか十数秒で終わってしまった。

僕の規格外のスピード。

リリィの予測不能な影からの奇襲。

その二つの奔流のような才能を前に、陽菜が積み上げた努力の城は、あまりにもあっさりと、砂のように崩れ去った。


「…………」

陽菜は何も言わなかった。

ただ呆然とリリィの、自分に向けられた手を見つめている。

そして一言、「ごめん、少し頭を冷やしてくる」とだけ呟くと、僕たちに背を向け屋敷の中へととぼとぼと歩いていってしまった。

その背中は僕が今まで見たことがないほど小さく、そしてか弱く見えた。


その日の夕方。

陽菜はクリスティーナ邸からの帰り道、一人公園のベンチに座っていた。

夕日がブランコや滑り台を、寂しげなオレンジ色に染めている。

子供たちの賑やかな声はもう聞こえない。


(……だめだ)

陽菜は膝を抱え、その間に顔をうずめた。

(全然、だめ……)

脳裏に今日の模擬戦の光景が、何度も何度も蘇る。

蓮の目で追うことすらできない、圧倒的な速さ。

リリィのどこから現れるか分からない、神出鬼没の強さ。

二人の背中はあまりにも遠かった。


「私には、二人みたいに戦う才能なんてないんだ……」

ぽつりと漏れた弱音。

悔しくて情けなくて、涙が溢れてきた。

守りたい。二人の隣に立ちたい。

そう思えば思うほど、自分のどうしようもない非力さが胸に突き刺さる。


強くなりたい。

でもどうすればいいのかわからない。

陽菜はただ一人、夕暮れの公園で静かに静かに泣いていた。

彼女の太陽のような笑顔は今、厚い厚い雲に覆われてしまっていた。

そのか細い嗚咽を公園の木々の影から、小さな賢者と電子の魔女がただ黙って見守っていることを、彼女はまだ知らなかった。


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