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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第107話:ひよっこと、二人の師匠


クリスティーナ邸の、広大な中庭。

朝露に濡れた芝生が、昇り始めた太陽の光を浴びて、きらきらと輝いている。小鳥のさえずりだけが聞こえる、穏やかな朝。

だが、その庭の一角だけは、ピリリと張り詰めた、汗と土の匂いが混じる、緊張感に満ちていた。


「――お願いします!」


陽菜は、トレーニングウェア姿で、僕とリリィの前に、深々と頭を下げた。

その声は、少しだけ震えていたが、瞳には、揺るぎない決意の光が宿っている。

「私に、戦い方を教えてください! もう、ただ守られてるだけじゃ、嫌なの!」


あの一件以来、陽菜はずっと、自分の無力さを悔いていた。

リリィが、自分のために命を懸けたこと。

蓮が、自分のために怒りを露わにしたこと。

その二つの光景が、彼女の心を強く、そして痛く、締め付けていた。

守られるだけの存在では、ダメだ。二人と、対等に、隣に立って戦える力が欲しい。


僕は、陽菜のその真っ直ぐな瞳を見て、静かに頷いた。

「……わかった。だが、生半可な覚悟じゃ、続かないぞ」

僕の脳内にある、アリアの戦闘理論。それは、常人が耐えられるような、甘いものではない。


だが、僕が了承するより先に、腕を組んで二人を見ていたリリィが、ふん、と鼻を鳴らした。

「……くだらん」

その声は、氷のように冷たかった。

「お前のような、ひよっこに何ができる。才能も、覚悟も、中途半端な人間が、戦場に出れば、真っ先に死ぬだけだ。我々の、足手まといになる」

それは、あまりにも、辛辣で、容赦のない言葉だった。


「……っ!」

陽菜の顔が、悔しさと、反発で、赤く染まる。

「そ、そんなこと、やってみなくちゃ、わからないじゃない!」

「わかるさ。お前の身体から感じる魔力の流れは、あまりにも不安定で、脆弱だ。戦いには、向いていない」

リリィは、事実だけを、淡々と告げる。


「……リリィ」

僕が、彼女を諌めようとした、その時。

陽菜は、唇をぎゅっと噛み締めると、再び、リリィの前に、深く、深く頭を下げた。

「……お願いします。どんなに、辛くても、絶対に、音を上げません。だから、チャンスをください!」


その、決して折れない心。

ひたむきな、瞳の光。

リリィは、しばらくの間、陽菜を、値踏みするように見つめていたが、やがて、大きなため息を一つついて、そっぽを向いた。

「……好きにしろ。だが、泣き言を言った瞬間、終わりだと思え」

その言葉は、彼女なりの、不器用な「許可」だった。


こうして、僕たちの、奇妙な特訓の日々が始まった。

僕が、アリアの知識を元に、戦術理論と、効率的な身体の使い方を教える『座学』担当。

リリィが、その圧倒的な実戦経験を元に、陽菜との、容赦のない組手スパーリングの相手を務める『実技』担当。


「――違う! 動きが、大きい! 攻撃の予備動作が見えすぎている!」

リリィの、鋭い声が飛ぶ。

陽菜が放った火球を、リリィは、まるで戯れるかのように、ひらり、ひらりと、紙一重でかわしていく。その金色の髪が、風に揺れるだけだ。

「敵は、待ってくれんぞ! もっと、速く! 鋭く! 思考と行動を、直結させろ!」

「はあっ、はあっ……!」


陽菜は、滝のように流れる汗で、トレーニングウェアのTシャツをぐっしょりと濡らし、何度も芝生の上に倒れ込む。

その薄い生地は、汗で身体にぴったりと張り付き、健康的な身体のラインと、その下に着けているスポーツブラの輪郭を、くっきりと浮かび上がらせていた。


僕の、男としての視線は、もはや、釘付けだった。

ひたむきに努力する、幼馴染の姿。

そして、その、あまりにも、眩しい、肢体。

僕の思考回路は、尊敬と、劣情の狭間で、完全にショート寸前だった。


ピコンッ。

その時、僕の耳のイヤホンから、エレクトラの、楽しげな声が、直接、脳内に響いた。


『――いい眺めですねぇ、女神様? 陽菜様の、あの、たわわに実った果実……。いえ、鍛え上げられた、素晴らしい肉体美。戦闘データとしても、非常に、有益です』


「ぶっ!?」

僕は、思わず、変な声を上げそうになった。

「なっ、見てるのか、エレクトラ!?」

僕が、小声で抗議する。

『ええ、もちろんですとも。クリスティーナ様の屋敷の警備システムは、私の庭のようなものですから。……それにしても、アリア様? 先ほどから、陽菜様の、胸部装甲・・・・・への視線固定率が、87.4%を超えていますが?』

「ち、違う! 俺は、ただ、彼女の動きの軸がブレていないか、確認して……!」


しどろもどろになる僕の言い訳を、エレクトラは、くすくすと笑うだけだった。

その頃、彼女の聖域では。

(うっひょー! 女神様、うろたえてる! 可愛い! そして陽菜様の、あの汗に濡れた姿……! あああ、尊いの供給過多で、脳が溶ける……!)

ケイは、モニターの前で、一人、身悶えしていた。それでいいのか天才ハッカー!


陽菜は、そんな僕たちの秘密の通信など露知らず、肩で大きく息をし、その瞳には悔し涙が滲んでいた。

僕は、慌てて彼女に駆け寄り、スポーツドリンクの入ったボトルを差し出す。

「……陽菜。魔力の練り方がまだ荒い。もっと、身体の中心を……」

僕は、できるだけ彼女の身体を見ないように、必死に戦術的なアドバイスに集中した。

だが、僕の視線が微妙に泳いでいることに、陽菜は気づいていない。


その、あまりにもひたむきで眩しい姿に、僕の心臓は、別の意味でもドキドキと高鳴り続けていた。


リリィは、そんな僕たちの様子を、少し離れた場所に立つ、樫の木に寄りかかりながら、腕を組んで見つめている。

その口元には、いつも「くだらん」という、冷たい言葉が浮かんでいる。

だが、その金色の瞳の奥にほんの少しだけ羨むような、そして、どこか懐かしむような複雑な色が浮かんでいるのを、僕だけは気づいていた。


矛と、盾と、そして、それを導く者。

僕たちの間には、いつしか、師弟のような、そして、ライバルのような、新たな絆が、芽生え始めていた。

陽菜が、本当の意味で、その才能を開花させるまで、あと、もう少し。

厳しくて、温かくて、そして、僕の理性にとっては、少しだけ過激で、騒がしい特訓の時間は、続いていく。


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