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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第105話:告白のあとさき


永遠に続くかと思われた、沈黙。

サンルームには、僕の、心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。

拒絶されるだろうか。

気味悪がられるだろうか。

僕が、男だと知っても、彼女たちは、今までのように、そばにいてくれるだろうか。

最悪の想像が、僕の頭を駆け巡り、冷たい汗が、背中を伝った。


その、張り詰めた空気を、最初に破ったのは。

部屋の隅に置かれていた、ちびケイちゃんのホログラムから、ピロリンッ♪という、間の抜けた電子音だった。


『――なるほどなるほど! そういうことでしたか! いやー、謎が全て解けました!』


ホログラムのちびキャラ慧は、一人でうんうんと頷きながら、僕たちの前のテーブルを、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。

その、あまりにも場違いな、ハイテンションな声。


「ちょっ、ケイちゃん! 今、真面目な話してるんだから!」

陽菜が、慌ててホログラムを止めようとする。

だが、ちびキャラ慧は、お構いなしに、くるりと僕の方を向いた。

『つまり、女神アリア様の中には、男子高校生の魂が宿っている、と! 魂は男! しかし、器は、か弱い乙女! ……まあ! なんて、背徳的で……そそられる設定・・なんでしょう!』

「「「…………」」」

僕も、陽菜も、クリスティーナも、リリィも、そのあまりにも不謹慎な(しかし、的確な)感想に、返す言葉もなかった。


その、エレクトラの、ある意味、いつも通りの暴走が、かえって、部屋の凍りついた空気を、少しだけ溶かしてくれたのかもしれない。

ぱちん、と。クリスティーナが、手にしていた扇子を、軽やかに閉じる音がした。


彼女は、驚愕に見開かれていた瞳を、すっと細めると、扇子の先で、とん、と自分のこめかみを叩いた。

そして、その唇に、まるで全てを理解したかのような、妖艶な笑みを浮かべた。

「……なるほど。どうりで、あのように時折、初心うぶな反応をなさるわけですわ。わたくしとのダンスの時も、お着替えの時も……ふふっ」

彼女は、扇子で口元を隠し、楽しそうに、くすくすと笑い始めた。

「ますます、興味深いですわ、アリア様。……いいえ、蓮様、と、お呼びすべきかしら?」


その瞳には、侮蔑も、嫌悪もない。

あるのは、ただ、目の前の、稀有で、愛おしい存在に対する、より深くなった、探究心と、そして、変わらぬ好意だけだった。


「……よかった」

僕の隣で、陽菜が、心の底から、ほっとしたように、呟いた。

彼女は、僕が秘密を打ち明ける間、ずっと、僕以上に緊張し、そして、僕が傷つくことを、何よりも恐れてくれていたのだろう。

「……蓮が、一人で抱え込まなくて、よかった」

そう言って、彼女は、太陽のように、優しく微笑んだ。


最後に、リリィが、口を開いた。

彼女は、僕の告白を聞いた後、ずっと、何かを考え込むように、黙っていた。

「……そういうことか。だから、私や『あいつ』が知るアリアとは、少しだけ、違っていたのだな。……なるほど、合点がいった」

彼女は、納得したように、小さく頷く。

そして、僕の顔を、まっすぐに見つめてきた。

「……ならば、改めて、問おう。斎藤蓮。お前は、これから、どうするのだ? アリアとして生きるのか、それとも……」


その、問いかけ。

それは、僕が、ずっと、目を背けてきた、僕自身の問題だった。

僕は、一度、目を閉じる。そして、隣にいる陽菜の、温かい手の感触を、確かめる。

僕が、守りたいもの。僕が、還りたい場所。


「……俺は」

僕は、目を開き、リリィを、そして、仲間たちを、一人一人、見つめ返した。

「俺は、アリアの力を借りて、斎藤蓮として、俺の大切なものを、守り抜く。……そして、いつか、必ず、元の身体に戻る方法を、見つけ出す」

それは、僕の、揺るぎない、決意だった。


その言葉を聞いたリリィは、ふん、と鼻を鳴らした。

「……まあ、よかろう。お前の覚悟、見届けさせてもらう」

その横顔は、どこか、少しだけ、嬉しそうに見えた。


僕の決意を聞き届け、仲間たちが、それぞれの形で、それを受け入れてくれた。

安堵で、僕の肩から、少しだけ力が抜ける。

僕は、改めて、目の前にいる仲間たち――陽菜、クリスティーナ、リリィ、そしてホログラムのエレクトラ――に向き直り、深く、頭を下げた。


「……頼みがある」

僕の声は、少しだけ、震えていた。

「このことは……俺が、男だということは、ここにいるメンバーだけの、秘密にしてほしい」

それは、僕の、魂からの、願いだった。

この秘密が外に漏れれば、僕だけでなく、陽菜たちの日常も、めちゃくちゃになってしまうだろう。


僕の、必死の懇願に、最初に答えたのは、陽菜だった。

彼女は、僕の手を、さらに強く、ぎゅっと握りしめた。

「当たり前だよ! 蓮の秘密は、私の秘密。絶対に、誰にも言わない。命に代えても、守るから」

その瞳には、一点の曇りもない、絶対的な信頼が宿っていた。


次に、クリスティーナが、扇子で、ぱん、と自分の胸を叩いた。

「ふふん。当然ですわ。わたくしたちが、あなた様の秘密を、無粋に言いふらすような、下賤な人間だとお思いで?」

彼女は、女王のように、気高く微笑んだ。

「あなた様の全ては、わたくしたちだけの、愛しい宝物。誰にも、指一本触れさせはしませんわ」


リリィも、やれやれ、といった顔で、小さく頷いた。

「……我も、約束しよう。賢者の名において、この口は、貝よりも固い」

その金色の瞳は、真剣そのものだった。


そして、最後に、ちびキャラ慧が、ぴょん、と敬礼のポーズを取った。

『もちろんですとも! 女神様の、最高に面白くて、最高に背徳的なこの秘密! 私たちだけの、至高の観測対象コンテンツを、みすみす他人に分け与えるなんて、愚の骨頂! この電子の魔女の名にかけて、完璧な情報封鎖をお約束します!』

少しだけ動機は不純だったが、彼女の約束が、誰よりも固いであろうことは、疑いようもなかった。


異世界から来た、賢者の少女。

第七区-画を統べる、女王様。

僕の、かけがえのない、幼馴染。

僕を支えてくれる、電子の海の魔女。


性別も、世界も、立場も、何もかもが違う。

だが、僕たちは、今、一つの、同じ秘密を共有し、同じ目的のために、心を一つにした。

本当の意味での、『チーム・ア-リア』が、産声を上げた瞬間だった。

僕たちの、本当の戦いは、ここから、始まる。


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