第11話:ブロンズのカードと冒険の支度
ギルドマスターとの模擬戦を終え、執務室に戻ると、彼は先ほどの受付嬢セラを部屋に呼びつけた。
「セラ。彼女のランクを『C』として再登録しろ。それに伴う説明もしてやれ。秘密厳守、特例昇格の件は他言無用だ。他の者には、非公開の特別昇格試験に合格した、とでも伝えておけ」
「は、はい! かしこまりました、マスター!」
セラは、僕とギルドマスターのただならぬ雰囲気を察したのか、さっきまでの好奇心に満ちた顔から一転、緊張した面持ちで頷いた。
ギルドマスターが部屋を出ていくと、セラは改めて僕に向き直り、プロフェッショナルな笑顔を浮かべた。
「改めまして、アリアさん! Cランク昇格、おめでとうございます! 私、受付担当のセラと申します。これからよろしくお願いしますね!」
「……ああ」
「では、Cランク冒険者としてのルールや特典についてご説明します!」
彼女はそう言うと、手際よく新しい書類とブロンズ製のカードを準備した。
セラの説明は、丁寧で分かりやすかった。
討伐記録が自動で登録される機能、緊急招集用の通信機能、ランク降格の条件など、Cランク冒険者として活動する上で必要な情報を、僕は一つ一つ頭に入れていく。
時間は思った以上にかかった。僕が執務室を出る頃には、ギルド内の冒明者の数もまばらになっていた。
「何かご不明な点はありますか?」
「……いや、ない」
「よかったです! Cランク冒険者アリアさんのご活躍、ギルド一同、心より期待しております!」
セラに見送られ、僕は執務室を後にした。
陽菜とは、もうとっくに下校時間を過ぎている。待ち合わせはしていない。
(ギルドマスターは、僕の内情を探るために部下に後をつけさせるかもしれない……)
アリアの知識が、そう警告する。信頼されたとはいえ、まだ完全に信用されたわけではない。警戒は怠るべきではない。
僕はギルドの出口には向かわず、建物に併設されているショップエリアへと足を向けた。ここは武器や防具、薬草やテントといった、いわゆる冒険者御用達の品々が揃う場所だ。時間稼ぎと、今後のための装備の確認を兼ねて、少し見て回ることにした。
店内には、様々な装備が並んでいる。
きらびやかな装飾が施された剣、頑丈そうな金属鎧、色とりどりのポーションが並んだ棚。僕のサバイバルナイフや黒いパーカーとは、まるで世界の違う品物ばかりだ。
(今の僕に必要なのは……)
僕は防具のコーナーで足を止めた。模擬戦で、ギルドマスターの肘鉄一発で吹き飛ばされたのだ。最低限の防御力は確保したい。
しかし、金属製の鎧は重すぎて、僕の動きを阻害するだろう。
僕の視線は、軽量で動きやすそうな革製の鎧や、衝撃を吸収する特殊素材で作られたインナースーツに向けられた。値段は、どれも今の僕には手が出ないほど高価だ。
「やっぱり、まずは依頼をこなして金を稼がないと、どうにもならないな……」
僕は小さくため息をつき、Cランク冒険者が受注可能な依頼リストに目を落とした。
『オーガの討伐』『ワイバーンの偵察』『ダンジョン中層域の地図作成』……。
どの依頼も、成功すればまとまった金になるだろう。
どの依頼を受けるべきか。僕はしばらくの間、リストを眺めながら思案に暮れた。
一通り店内を見て回り、追手の気配がないことを確認してから、僕はギルドを後にした。
人通りの多い大通りを避け、わざと入り組んだ路地裏を選んで進む。何度か同じ角を曲がったり、建物の屋根に駆け上がって周囲を見渡したりして、完全に追跡者がいないことを確信してから、陽菜の家へと向かった。
ドアを開けると、仁王立ちの陽菜が僕を迎えた。
「……おかえり、蓮。遅かったじゃない。何かあったの?」
その声には、心配と、少しの怒りが混じっている。
僕は黙って、ブロンズ色のギルドカードを彼女に見せた。
「え……これって……Cランク!? なんで!? どういうこと!?」
目を丸くしてまくしたてる陽菜に、僕は今日あった一部始終――ギルドマスターとの模擬戦のことも含めて、ゆっくりと話し始めた。




