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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第102話:金色の夜明け


医療室は夜明けのような温かい光に満ちていた。

陽菜の手から溢れ出す太陽の光とリリィの身体から放たれる星の光。二つの輝きはらせんを描きながら混じり合い、僕たちの視界を優しい金色で染め上げていく。


『――生命エネルギー波形、安定。再構築シークエンス、最終段階へ移行します』

部屋の隅から聞こえるエレクトラの冷静なアナウンスだけが、この奇跡がただの幻ではないことを僕に教えてくれていた。


光の中心でリリィの身体が、その輪郭を急速に変えていく。

小さな黒猫の姿が光の粒子へと分解され、そして新たな形へと再構築されていく。

しなやかな手足が伸び華奢な肩のラインが描かれ、そして背中まで届く美しい金色の髪が光の中でさらさらと流れた。


やがてまばゆい光がゆっくりとその輝きを収めていく。

僕と駆けつけてきたクリスティーナは、息を呑んでベッドの上を見つめていた。


そこにいたのはもはや黒猫ではなかった。

真っ白なシーツの上に静かに横たわる一人の少女。

陽光を溶かし込んだかのような美しい金色の髪。その間からぴんと立つ愛らしい獣の耳が、かすかにぴくりと動いている。

閉じられたまぶたは少しだけ幼さを残し、その肌はまるで陶器のように滑らかで白い。

外見は12歳くらいだろうか。その表情にはどこかあどけなさが残っている。その身にまとうオーラはどこまでも気高く、まさしく古の賢者のそれだった。


「…………」

誰もが言葉を失いその非現実的な光景に、ただ立ち尽くしていた。


その静寂を破ったのは。

少女の長いまつげがかすかに震え、その金色の瞳がゆっくりと開かれた瞬間だった。

「……ん……」

少女――リリィはぼんやりとした瞳で天井を見つめ、やがて自分の身体を見下ろし、そして自分の白魚のような手を見つめた。

その瞳に戸惑いと、そして安堵の色が浮かぶ。


「……リリィ……ちゃん……?」

陽菜が震える声でその名前を呼んだ。


その声に少女――リリィはゆっくりと顔を上げた。

まだ覚醒しきらないぼんやりとした金色の瞳が、陽菜の姿を捉える。

そしてその小さな唇がかすかに動いた。


「……ひ……な……?」


それはまだ少し舌足らずでか細く、そして少女のものとは思えないほど古風な響きを持つ声だった。

初めて聞く彼女の言葉。

その一言だけで陽菜の瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出した。


「――リリィッ!!」


陽菜は叫ぶようにその華奢な身体に飛びついた。

まだ衰弱しているリリィを、しかし壊れ物を扱うように優しく優しく抱きしめる。

「よかった……! よかった……! 目を覚ましてくれて……!」

しゃくり上げながら何度も何度も、陽菜はその言葉を繰り返す。

その背中は喜びと安堵で小さく震えていた。


リリィは突然抱きしめられ驚いたように、一瞬だけ身を固くした。

(な、なにするにゃ、いきなり……!)

だが陽菜の温かい涙が自分の肩を濡らし、その心の底からの喜びが肌を通して伝わってくるのを感じて。

彼女は何も言わずその長い腕をおそるおそる、陽菜の背中に回した。

そしてまだ少しおぼつかない様子で、ぽんぽんと優しく叩いてやる。


「……もう、泣くな。……うるさい」


ぶっきらぼうな彼女らしい言葉。

だがその声はどこまでも優しかった。


僕とクリスティーナはそんな二人の姿を、ただ黙って見つめていた。

部屋の隅ではちびケイちゃんのホログラムがハンカチを取り出し、ぐすんぐすんと涙を拭っている。


陽菜がようやく泣き止み名残惜しそうにリリィの身体から離れる。

リリィは少しだけ照れくさそうに顔をそむけると、ベッドから降りようとして――ふらりとよろめいた。

まだ人間としての身体の感覚に慣れていないのだろう。

その瞬間彼女の華奢な身体を覆っていた真っ白なタオルケットが、はらりと滑り落ちた。


「「「――っ!!」」」


あらわになる少女のしなやかな肢体。

僕は慌ててくるりとそっぽを向き、顔が熱くなるのを感じた。

クリスティーナも扇子を取り出しそれで顔を隠しながらも、指の隙間からじっとその光景を見ている。


「きゃっ! り、リリィちゃん、だめ!」

陽菜が悲鳴に近い声を上げ慌てて床に落ちたタオルケットを拾い上げると、リリィの身体に再び羽織らせた。

リリィ本人は何が起きたのか分かっていないのかきょとんとした顔で、自分の身体と僕たちの反応を交互に見比べている。


そして陽菜にタオルケットをぎゅっと巻き付けられ、ようやく自分の状況を理解したのだろう。

「……あ!」

小さな声を上げたかと思うとタオルケットの端をぎゅーっと胸の前で強く握りしめ、その顔がみるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていった。


長い長い夜が明けた。

僕たちの小さな家族の絆は一つの奇跡を乗り越え、今新たな形で結び直されたのだ。

金色の髪を持つ気高き賢者の少女。

彼女の少しだけ前途多難な物語は、このあまりにも刺激的な夜明けと共にようやく始まろうとしていた。


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