表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/142

第101話:間話:繋がる想い、届かぬ祈り


クリスティーナ邸の陽光が差し込む一室。

そこに三人の少女たちの沈んだ声が響いていた。

「……陽菜、やっぱり今日も元気ないね」

ミカが持ってきたばかりの、色とりどりのフルーツゼリーが乗ったお皿を力なく見つめる。


陽菜の友人――『銀の百合騎士団』の面々はあの日以来、毎日交代でこの屋敷にお見舞いに訪れていた。

彼女たちの目的はただ一つ。

大切な親友であり仲間である陽菜を元気づけること。

だが医療室の扉の向こうにいる陽菜は日に日に、その太陽のような輝きを失っていくばかりだった。


「無理もないよ……。あんなに大切にしてた猫ちゃんが目の前で……」

ユキが瞳を潤ませる。

「私たち、陽菜のために何もしてあげられないのかな……」

アヤのか細い声が静かな部屋に溶けていく。

自分たちがパーティーではしゃいでいたせいで陽菜を、そしてアリアをこんなにも悲しませてしまった。その無力感が少女たちの胸を重く締め付けていた。


「……ううん、そんなことない!」

沈黙を破ったのはミカだった。彼女はパンと自分の膝を叩くと顔を上げた。その瞳にはいつかの騎士団長のような、強い光が宿っていた。

「陽菜を笑顔にするのが、私たちの役目でしょ!」


三人は顔を見合わせ力強く頷いた。

そこからの彼女たちの行動は迅速だった。

「陽菜、これ学校の授業のノート! 私が完璧に取っておいたから心配しないで!」

「陽菜が好きだって言ってた駅前のケーキ屋さんの新作、買ってきたよ!」

「見て見て陽菜! この前の訓練の時のアリアさんの面白い写真!」

彼女たちは陽菜が少しでも笑ってくれるように、自分たちにできるありったけのことをした。


そしてある日の午後。

三人は陽菜が付き添う医療室に、小さないろとりどりのお守りをたくさん持ってきた。

「これね、街中のご利益があるって言われてる神社、全部回ってもらってきたんだ!」

「陽菜の大切な『家族』が元気になるようにって!」

彼女たちの行動はあくまで「親友である陽菜のため」。

だがその優しい想いは間違いなく、眠り続けるリリィにも向けられていた。

「陽菜をこんなに悲しませるなんて許さないんだから。……だから早く元気になりなさいよね、猫ちゃん」

ミカはリリィの枕元にお守りを置きながら、そっとそう語りかけた。


――同時刻。冒険者ギルド。


カウンターの奥にあるギルドマスターの執務室。

そこには珍しくブルックとジンの二人の姿があった。

「――……で、アリアの様子はどうなんだ」

ブルックが腕を組みぶっきらぼうに尋ねる。

ギルドマスターは山のような書類から顔を上げ、重々しくため息をついた。

「……ああ。クリスティーナ嬢からの報告によれば相当心を痛めているらしい。無理もないがな。目の前で仲間・・がやられたんだ」


その言葉にジンが舌打ちをした。

「ちっ……。あの時俺たちがもっと早く駆けつけていれば……」

「……終わったことを言っても詮無い」

ギルドマスターはそう言いながらも、その表情は苦渋に満ちていた。


沈黙を破ったのはブルックだった。

彼は立ち上がるとギルドマスターに深々と頭を下げた。

「マスター、頼みがある。俺たちに何かできることはねえか」

「……なんだと?」

「あのアリアの大切な猫なんだろ。助かる見込みがあるなら何でもする。特級の回復ポーションでも幻の薬草でも、俺たちが採りに行ってきてやる」

彼らの目的はあくまで「大事な仲間であるアリアを元気づけるため」。

そのためにアリアが大切にしているらしい「猫」を救う手立てを探す。

荒くれ者たちなりの不器用で、しかしどこまでも真っ直ぐな友情の形だった。


――そして、その夜。再び医療室。


陽菜は友人たちが持ってきてくれたお守りを、リリィの枕元に一つ一つ丁寧に並べていた。

そしてブルックたちが命がけで採ってきてくれたという、魂に効くとされる希少な薬草を九条先生が煎じてくれた薬湯。その一滴を濡れた布に含ませ、リリィの乾いた口元を優しく湿らせてやる。


「……みんな、あなたのこと心配してるよ。私も蓮も……」

陽菜は眠るリリィの小さな肉球をそっと握りしめた。

「みんなの想いがここに集まってる。だからお願い……!」


陽菜が仲間たちの想いを代弁するようにそう祈った、その時。

友人たちのお守りがギルドの薬草の残り香が、そして陽菜自身の純粋な想いが触媒となった。


彼女の身体から光が溢れ出す。

それは彼女一人だけの力ではない。

リリィを、そして陽菜とアリアを想う全ての仲間たちの祈りが束となって、今一つの奇跡の引き金を引いたのだ。

物語は絶望の淵から再び、光の差す方へと動き始めようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ