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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
【第6章】 日常侵食編 ~復讐の駒と覚醒の賢者~

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第97話:戦いの終わり


「――リリィィィィィィィッ!!」


僕の絶叫が静まり返った大広間に響き渡った。

その声が張り詰めていた戦場の空気を、まるで薄いガラスのように粉々に砕いた。


強化外骨格の隊長は自らの胸に刻まれた、信じられないほどの深い爪痕と、壁際でぐったりと動かなくなった小さな黒猫を交互に見比べて呆然としている。

その絶対的な強者が見せたほんの一瞬の、致命的な隙。


(……お前のせいだ)

僕の思考が、氷のように冷えていく。

陽菜を追い詰め、リリィを傷つけた。この男だけは、絶対に許さない。

(お前の相手は、俺だろ)


僕はいつの間にか彼の背後に立っていた。

足元の傭兵たちをただの障害物のように蹴散らし、怒りに任せてではない、絶対零度の殺意だけで僕は駆けたのだ。

「なっ!?」

隊長が驚愕に目を見開いて振り返る。

だがもう遅い。


僕のミスリルナイフの切っ先が、強化外骨格の切り裂かれた装甲の隙間から、寸分の狂いもなく深々と突き刺さっていた。

神経節を断ち切られ生命維持装置を破壊される鈍い感触。

「……が……はっ……」

隊長の口から血の泡が漏れる。

僕は何も言わずただ冷たい瞳で、その巨体がゆっくりと床に崩れ落ちていくのを見下ろしていた。


リーダーを失った傭兵たちの間に動揺と、そして敗北の空気が伝染病のように広がった。

統率を失った彼らはもはやプロの部隊ではない。ただの烏合の衆だ。

そのタイミングを見計らったかのように大広間の入り口から、新たな光が怒涛のように差し込んできた。


「突入しろ! 生き残りは一人残らず確保しろ!」

野太い聞き覚えのある声。ギルドマスターだ。

彼に率いられた屈強な冒険者たちが、雪崩を打つように広間へと突入してくる。

ブルックの巨大な盾が残った傭兵たちを薙ぎ払い、ジンの双剣がその隙を刈り取っていく。

戦いの趨勢は完全に決した。


僕はもうその後の騒ぎには目もくれず、ただ一直線に壁際へと駆け寄った。

硝煙の匂いと、血の鉄錆びた匂い。砕けたガラスが月明かりを乱反射し、まるで墓標のようにきらめいている。

そこにリリィは小さく、そして動かずに転がっていた。

「リリィ……! おい、リリィ!」

僕がその小さな身体を震える手で、そっと抱き上げる。

温かい。まだ温かい。だがその呼吸はあまりにも弱々しく、今にも風に吹き消されてしまいそうなか細いロウソクの炎のようだった。


「……蓮……」

陽菜がふらつく足で僕のそばにやってきた。彼女の瞳からは大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちている。

「リリィが……私のせいで、リリィが……」

「……陽菜のせいじゃない」

僕はそれだけを言うのが精一杯だった。違う。俺の力が足りなかったからだ。俺が、もっと強ければ。


ギルドマスターが、僕たちのそばに静かに立った。

「……アリア。見事な戦いだった。だが……その猫は?」

彼の、いつもは豪放な声に、戸惑いの色が滲んでいる。

僕は、何も答えられなかった。


やがて全ての傭兵が鎮圧され大広間にようやく本当の静寂が戻った。

だが僕たちの心の中は勝利の安堵ではなく、目の前の小さな命に対する深い深い絶望感で満たされていた。

僕の腕の中でリリィの体温が少しずつ、少しずつ失われていくのを、僕はただ感じていることしかできなかった。


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