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幼馴染の 『女の子同士だから大丈夫!』 が一番大丈夫じゃない!  作者: 輝夜
第1章:銀色の夜明け ~始まりと再生~

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第1話:始まりと終わり

 

「れーん! 早くしないと遅刻するよー!」


 玄関のドアを叩く、嵐のような音と元気な声。慌てて食パンを喉に押し込み、牛乳で流し込む。

「わかってるって、陽菜ひな!」

 僕は壁に立てかけてあった模擬刀とサバイバルバッグを掴み、玄関を飛び出した。そこには、ポニーテールを揺らしながら、少しだけ頬を膨らませた幼馴染の橘陽菜が立っていた。


「もう、蓮は朝弱いんだから。今日の壁外授業、寝ぼけて怪異に食べられちゃっても知らないよ?」

「お前がモーニングコールしてくれればいいだろ」

「してるでしょ! 毎朝!」

 軽口を叩き合いながら、巨大な防護壁の内側に広がる都市を歩く。僕、斎藤蓮さいとうれん、16歳。高校一年生。クラスの女子からは「可愛い系」と評されることが多いが、自分ではよくわからない。そんな僕の隣を歩く陽菜は、いつも太陽みたいに明るくて、運動神経も抜群。おまけに、微弱ながらも炎を操るスキルまで持っている、自慢の幼馴染だ。


 僕たちの通う防衛高校では、座学よりも実戦訓練が重視される。そして今日は、数ヶ月に一度の『壁外授業』の日。比較的安全が確保されたエリアで、低級の怪異を討伐し、サバイバル技術を学ぶのだ。

「今日の授業、大丈夫かな……」

 陽菜が珍しく不安そうな声を漏らす。

「陽菜なら余裕だろ。スキルもあるし」

「蓮こそ、スキルはないけど、いつも冷静だから大丈夫だよ。いざとなったら、私が守ってあげる!」

 ニシシ、と笑って胸を叩く陽菜。その屈託のなさに、いつも救われている気がした。


 壁を抜ける巨大なゲートは、いつ見ても緊張する。重々しい金属音を立てて開く扉の向こうは、20年前に時が止まった旧世界。崩れかけたビル、錆びついた信号機、そしてアスファルトを突き破って伸びる雑草。時折、遠くから正体不明の鳴き声が聞こえてくる。


「よし、各自、索敵開始! 二人一組で行動、無理はするなよ!」

 教官の声が飛ぶ。僕はもちろんだが陽菜とペアを組んだ。

「蓮、あっち。気配がする」

「了解」

 陽菜の直感は鋭い。僕は気配を殺して慎重に瓦礫の山を回り込む。そこにいたのは、緑色の肌をした小型の怪異、ゴブリンが二体。

「陽菜、合図で頼む」

 僕が短く告げると、陽菜はこくりと頷く。

 僕が小石を投げて一体の注意を引いた瞬間、陽菜が動いた。

「えいっ!」

 可愛らしい掛け声と共に、彼女の手のひらから小さな火球が放たれる。火球はゴブリンの一体に命中し、その動きを怯ませた。その隙を逃さず、僕はもう一体の背後に回り込み、模擬刀の柄で首筋を強かに打ち据える。気絶したゴブリンを見て、陽菜ももう一体を手早く無力化していく。完璧な連携だった。


「やったね、蓮!」

「お前のおかげだよ」

 ハイタッチを交わし、安堵の息をつく。この調子なら、今日の授業も無事に終えられそうだ。

 そう、思っていた。


 その時だった。


 突如、空が震え、地が揺れた。遠くで、聞いたこともないような巨大な咆哮が轟く。

『――グルォォオオオオオオオオオオ!!!』

 教官の顔色が変わった。

「まずい、スタンピードだ! 総員、直ちに撤退! ゲートへ急げ!」

 指示と同時に、ビルの影や地下から、無数の怪異が溢れ出てきた。ゴブリン、巨大な狼、多足の昆虫型。その数は、明らかに学生が対処できるレベルを遥かに超えている。

「蓮、こっち!」

 陽菜が僕の手を掴んで走り出す。教官たちが前線で時間を稼いでくれているが、それも長くはもたないだろう。

 悲鳴と怒号が飛び交い、生徒たちは散り散りになっていく。僕と陽菜も、必死に走り続けた。


 だが、運悪く、一体の大型怪異――熊のような体躯に、複数の腕を持つオーガが、僕たちの前に回り込んできた。

「くそっ!」

 陽菜が咄嗟に火球を放つが、分厚い皮膚に弾かれ、効果は薄い。オーガの巨大な腕が、陽菜を薙ぎ払おうと迫る。

「危ない!」

 僕は陽菜を突き飛ばし、自分は横に転がって攻撃を避けた。

 体勢を立て直そうと駆け込んだのは、崩れかけたビルの薄暗い路地裏だった。オーガが追ってくる。もう逃げ場はない。


「……蓮!」

 突き飛ばされた陽菜が、悲痛な声を上げる。

 だが、その声に応えることはできなかった。

 オーガから逃れるために踏み込んだ足元の地面が、突如、淡い紫色の光を放ったからだ。幾何学的な模様が浮かび上がり、足が縫い付けられたように動かない。

「な……なんだ、これ……!?」

 転送トラップ――ごく稀に、旧時代の遺物や怪異の特殊能力で発生すると言われる、空間転移の罠。最悪のタイミングで、最悪のものを踏んでしまった。


「れーーーーんっ!!」


 陽菜の叫びが聞こえる。手を伸ばそうとするが、強い力で身体が引きずり込まれていく。視界が急速に白く染まり、あらゆる感覚が麻痺していく。

 最後に網膜に焼き付いたのは、涙を流しながら必死にこちらへ手を伸ばす、幼馴染の姿だった。


 ごめん、陽菜。

 守るって、約束したのに。


 そこで、僕の意識は完全に途切れた。


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