皇帝暗殺の理由
神がかり行者は怒り心頭、口から泡を飛ばしながら、
「オマエはまだ若い。その勢いだけで突っ走りおって、このバカモノめ!!!」
「ひどい言われ様ね。でも、何もせず待っているだけでは、何も変わらないわ。正しかろうと間違っていようと、勢いに任せて突き進むことで見えてくる未来もあるわ」
われながら、なんだかよく分からない言い回し……
神がかり行者は、ますますいきり立ち、
「たわ言をぬかすな! そんな思慮のない似非ロマン主義が人々を滅亡へと導くのだ!!」
「『たわ言』はお互い様、いえ、むしろ、あなたでしょう。そもそも、あなたは何を求めているのかしら。自分では『真実を求め、知り、教え広める者』のつもりかもしれないけど、誰もがあなたを『神がかり行者』と呼んで嘲笑しているわ」
「それがどうした!? 正しい道、正義を貫いておるのだ。恥じ入るところなど、まったくない!」
「それはあなたの自己満足でしょう。公園で大声を張り上げていても、誰にも相手にされないなら、大声を上げる意味はないわ」
「そんなことはない! 絶対に違う!! 今はまだ、人々の精神性が向上していないだけだ。すべての人々が真理に目覚め、真実の声に耳を傾ける時が、必ず来る!!!」
神がかり行者は白髪を振り乱し、胸元をかきむしるようにして言った。でも、真理とか精神性の向上とか、そんな時が、本当に来るのだろうか。
わたしは虚空に顔を向け、思わず「ふぅ~」とため息をひとつ、
「でも、真理に目覚めたブタって…… まるでマンガね」
「ブタだと? ブタがどうしたのだ??」
神がかり行者には、意味がうまく伝わっていない様子。
「いつもあなたが言ってることよ。人々・民衆・大衆を指して、ウソ偽りの世界で安逸をむさぼっているブタとか、なんとか。そんなブタの精神性を言われてもね」
「なにぃ! だからおまえはブタなのだ、だから、だからだ!! 真実を、真理を受け入れて高度な精神性を獲得することができないからこそ、ブタに堕ちる。そのことが、なぜ分からぬのだ!!!」
「でも、やっぱりブタでしょ。ブタにはブタなりの……つまり、ブタであり、ブタに堕ち、精神性向上の兆しさえ見られないブタたる民衆には、それなりの扱いが必要ではないかということよ」
ここまでくると、もう、何を言っているのか、自分でもわけが分からない。
「ブタたる民衆を真実に導くためには、ブタにも分かるような形で示してやらないとね。つまり、ウソ偽りという、本来存在してはならないものは、早急に取り除く必要があるとしても、基本的にはブタの認識能力に合わせて見せてやればいい、つまり、仏教用語に言う本来の意味の『方便』よ」
「民衆を導くだと? 皇帝殺害は、そのための方便なのか!?」
神がかり行者は両手を頭にやり、激しく白髪をかきむしっている。彼の頭の中で、勝手に皇帝暗殺の理由を作り上げているようだが……




