歴代皇帝の廟
大平原に小高い丘が幾つも連なっている。どうやら目的地に到着したようだ。この古墳のような丘の一つ一つには、歴代皇帝一人一人が埋葬されている。帝都から見て一番手前のものが初代皇帝の墓で、二代目以降は、初代皇帝の墓の後ろに扇形に広がっていくように配置されている。初代皇帝の墓の前には祭祀用の小さな祠(「歴代皇帝の廟」)が設けられており、儀式はここで執り行われることになる。
今日は天気もよく、澄みきった青空はどこまでも遠く広がっている。儀式にはうってつけだ。皇帝は、どんな運命が待ち構えているかも知らず、随行を引き連れてこちらに向かっているだろう。
わたしたちはしばらく付近を歩き回り、見晴らしのよい地点を選んだ。ここからだと、歴代皇帝の廟はミニチュアにしか見えない。
「随分と遠いわね。本当に大丈夫かしら」
「問題ない。このくらいなら、余裕で有効射程の範囲内だ。ただ単に、頭の中で皇帝を思い浮かべながら射れば、それでいい」
ガイウスの話では、「矢を目標に向けて、その姿かたちを頭の中でイメージしながら射れば(多少不鮮明なイメージでもまったく問題ない)、あとはエルブンアローの魔力によって確実に命中する」とのことだけど、どういう原理なんだか……
皇帝の行列がやってくるまでは、まだ時間がある。手持ち無沙汰でもあり、丁度いい機会でもあるので、前々から疑問に思っていたことをひとつ……
「ねえ、質問があるんだけど、いい?」
「何かな? 答えられることなら答えるが」
「魔法アカデミーの塔の最下層に囚われている『すべてのエルフの母』って、一体、なんなの???」
「『なんなの』と言われても、『すべてのエルフの母』としか答えようがないが……」
ガイウスによれば、「すべてのエルフの母」とは、文字通りの意味で、「すべてのエルフの母」らしい。すなわち、歴史上最初のエルフ女性が「すべてのエルフの母」であり、エルフの共通の祖先に当たるという。なお、エルフは信じられないくらいに長生きし、しかもある程度の年齢以降になると、外見上、成長(老化)が止まるので、「すべてのエルフの母」は、今も、見た目は30歳前後だとか。本当にうらやましい話だ。
「もうそろそろだな」
ガイウスが言った。皇帝の行列らしい人の群れが帝都の城門から出てくるのが見える。町の住民もその行列を取り巻くように、次々と町の外に飛び出していくようだ。もっとも、この距離からではアリのようにしか見えないが。なお、その上空をショウジョウバエのように、魔法アカデミーの魔法使いが数人、飛び回って周囲を警戒している。
その時……
背後から、いきなりドスの利いた声で、
「ゴルァ! キサマら!! こんなところで、何をやっとるか!!!」




