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とにかく「すごい」

 わたしはプチドラを抱き「開かずの間」に向かった。プチドラは珍しく興奮しているのか、落ち着きがない。

「プチドラ、大人しくしてないと、落っこちるわよ」

「ごめん、マスター。分かってはいるけど、つい……」

 プチドラも帝国成立前の「有史以前」に初代皇帝と戦っていたということだから、昔を思い出していたのかもしれない。

 ただ、現実の問題としては、敵方の総大将とも言える皇帝を討ち取った場合に何が起こるのか、気になるところ。

「プチドラ、もし、この計画が成功して、皇帝を亡きものにできたら、どうなるかしら?」

「う~ん、どうなるかな。今の段階ではよく分からない、いや、全然予想もつかないけど、すごい混乱が巻き起こるかもしれないよ」

「すごいことになりそうなのは、わたしにも分かるわ。だから、その『すごい』というのは、具体的に何がどうなるかということなんだけど」

「どうだろう。とにかく、『すごい』としか…… つまり、ものすごい……」

 よく分からない話だけど、その「すごい」ゆえんを要約すると、①皇帝が暗殺されたことは、これまでの歴史上、一度もなかった(ただし記録に残っているものだけに限る)、②現在、皇帝に子はなく、皇帝が暗殺されるとすれば直系の血統が絶えることになるが、そのようなことは、これまでの歴史上、一度もなかった、ということ。官僚的な表現を借りれば、前例がないのでの分からないということだが……

「わけが分からないことになりそうね。とりあえずタダでは済まない?」

「だろうね。ボクとしては、騒乱でも内乱でも擾乱でもいいから、とにかくムチャクチャになってくれれば……」

 意外とプチドラは乱を好むのかもしれない。


 わたしはプチドラを抱き、「開かずの間」の床に設けられたドアから地下道を通り、いつもの地下室に入った。地下室では、うまい具合に、リーダーのガイウスとサブ・リーダーのクラウディアが、紅茶を飲みながら、まったりとくつろいでいる。

 クラウディアはわたしの姿を認めると、

「あら? 家賃は先日お支払いしたはずですが…… え~っと、ひょっとして、思い違いで、まだ支払ってなかったのかしら」

「家賃はいいから。それはともかく、あなた、意外と天然ボケ…… いえ、なんでもないわ」

「はい???」

 クラウディアは不思議そうにわたしを見つめた。帝国建国500年祭が始まるまで、あと10時間余り。余計なことをして時間を浪費する余裕はない。

 わたしはプチドラと目を合わせ、

「突然だけど…… 結論から言うと、皇帝を暗殺します。だから、手伝ってほしいの」

「!?」

 ガイウスもクラウディアも呆気にとられ、ポカンと口を開けた。非合法活動をしているなら危ない話にも慣れているとは思うが、何の脈絡もなく「暗殺」だから、無理もない。

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