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ザ☆旅行記Ⅴ ダーク・エルフ  作者: 小宮登志子
第5章 人間模様
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三たびゲテモン屋

 帝国建国500年祭を明日控え、街中は人や車(馬車)でごった返していた。大通りには、この機会にひと儲けを当て込んで露店が並んでいる。

「くそったれ! うじゃうじゃと、こいつら、一体どこから涌いてきやがったんだ!!」

 人波に阻まれて馬車がなかなか前に進まず、ツンドラ候はご機嫌斜め。プチドラが隻眼の黒龍モードでちょっぴり威嚇すれば、みんな慌てふためいて逃げ出すだろう。でも、大パニックになって、負傷者続出だろう。

 ツンドラ候は耐えられなくなったのか、御者をつかまえ、

「おい、こうなったら非常手段だ! 平民どもを踏み潰してもいいから、全速力で進め!!」

「そっ、そんな、無茶な……」

「構わん。俺様が許す。どうせ警備の責任者のドラゴニア候の責任が問われるだけだ」

 なんだかすごい理屈だけど、警備の手抜かりということで押し通せば、なんとか……無茶だけど、無理スジというほどではないかもしれない。


 ともあれ、いつも以上に時間がかかって、ようやくゲテモン屋に到着。大きな看板とみすぼらしい小屋のような店舗は、いつものとおり。わたしたちがカウンター席に掛けると、

「侯爵様、毎度、お世話になっております」

「おお、オヤジ、また来てやったぞ。今日から帝国建国500年記念メニューが始まるそうだな。ここはひとつ、すごいのを頼むぜ」

 記念メニュー…… わたしは思わず身震いした。ツンドラ候は店のオヤジとの話に夢中になっている。「これほど悪食の人は、ほかにいないだろう(本当に人間か、こいつ)」と思って待っていると、出てきたのは……

「お待たせいたしました。まずは、ハリガネムシと虫こぶのサラダでございます」


 そして………


「オエップ…… きもち…… わるい……」

 夕方、屋敷に戻ると、わたしは濡れたタオルを額に当ててソファの上で横になった。プチドラもぐったりとして、

「マスター、今日のも、結構、強烈だったね……」

「思い出させないで…… これから先もゲテモン屋通いが続くのは、いくらなんでも耐えられないわ。プチドラ、今晩こっそりと店を破壊してきてくれない? ピンポイントが面倒なら適当に絨毯爆撃でもいいわ」

「そんな大雑把な。ツンドラ候じゃあるまいし…… それに、さすがにそこまでするのは犯罪的だよ」

「構わないわ。本当にゲテモン屋がなくなるなら大歓迎よ。たとえ犯罪でも、戦争でも、なんだって……」

 このような場合に、不幸中の幸いといってよかろう。その時、わたしはソファの上で、ゲテモン屋のフラッシュバックを味わう代わりに、眠りに落ちていたのだった。

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