パーシュ=カーニス評議員と帝国宰相
帝国宰相はドラゴニア候とともに、そそくさと立ち去った。ドラゴニア候が何か話しかけているようだけど、宰相はまったく相手にしない。一体、どんな顔をして歩いているのだろう。いつもは温厚な帝国宰相の顔が、今では鬼のような形相になってたりして……
「くっくっくっ……」
パーシュ=カーニス評議員はこらえることができないようだ。口から笑い声が漏れる。ゾンビ化事件の時も、帝国宰相との仲は良さそうに見えなかったけど、本当のところはどうなのだろう。
「パーシュ=カーニス評議員、つかぬことをおうかがいしますが……」
「何かね?」
「その…… 少し言いにくいのですが、ぶっちゃけた話、評議員と帝国宰相は仲がよろしくないのでは?」
「ハッハッハッ、確かにそれは言いにくい話ですな。しかし、この世の中、言葉に出さなくても、以心伝心ということもありましてな。このような人情の機微に触れる問題では、特にそれが当てはまるということもありますからな」
なんだか要領を得ない話だけど、パーシュ=カーニス評議員と帝国宰相は仲が良くなさそうなことだけは分かった。とりあえず、そういうことにしておこう。
帝国宰相とドラゴニア候の姿が見えなくなると、パーシュ=カーニス評議員は再びわたしの耳元に口を近づけ、
「ところで、ウェルシー伯もドラゴニア候と仲がよくないとか。聞いた話では『抗争中』ということだが、殺伐とした雰囲気ですな。私の口からは、『頑張りたまえ』としか言えないが、一体、何があったのですかな?」
「実は、些細な行き違いから…… 検問所で余りに無礼な物言いをする警備兵をたしなめたり(99%ウソ)、公園で神がかり行者を虐待している警備兵に注意したり(99%本当)した時に、ちょっとしたトラブルに。でも、そんな大袈裟な話ではありませんわ」
すると、パーシュ=カーニス評議員は、一瞬、顔をしかめ、
「むむむ…… ウェルシー伯、前にも言ったかもしれないが、その、神がかり行者には、あまり関わり合いにならぬ方がよろしいぞ」
おそらく、パーシュ=カーニス評議員も、真実の歴史を知る数少ないうちの一人だろう。わたしもその真実を知っているが、さも何も知らないような顔で、
「そういえば、以前、そのようなことをうかがいましたね。神がかり行者は、見ていると面白いので、つい……」
「気をつけるがよろしかろう。これには微妙な問題がありますからな。『つい』や『うっかり』では…… 注意一秒、怪我一生ですな」
分かったような分からないような不思議な会話だが、適当なところでパーシュ=カーニス評議員との話を切り上げて大広間に戻ってみると、律儀にもツンドラ候がわたしを待っていた。そして有無を言わせずわたしを馬車に引っ張り込み、昼前からゲテモン屋に……




