最終の実行委員会
ツンドラ候はご機嫌だった。前日、ドワーフの王国の要人を招いて晩餐会を催した際、ドワーフで一番の腕自慢と余興で勝負をして、3分弱でKO勝ちしたらしい。
「いよいよ今日で実行委員会の仕事は終わりか。こうなったら、『あとは野となれ山となれ』だな」
思わず「あんたは何もしていないだろう」と突っ込みを入れそうになった。それに、「野となれ山となれ」って……
馬車は宮殿に向けてゆっくりと進む。ここは帝都の一等地、市街地からは離れているが、それでもお祭りを明日に控えた住民の熱気が、遠くから伝わってくるような気がする。
窓から外を眺めていると、ツンドラ侯がニヤニヤとした顔で、
「ウェルシー伯よ、このところドラゴニア候と抗争してるんだって?」
「抗争……ですか?」
「検問所で大暴れしたとか、公園では公衆の面前で警備兵をボコボコにしたとか、すごい噂になってるぞ」
わたしは思わず苦笑しつつ、
「はあ、基本的に誤りではありません。でも、原形を留めないほどに話がおもしろおかしく脚色されているような……」
「抗争は構わないが、俺様に恥をかかせるようなことはするんじゃないぞ」
ツンドラ候は巨体を揺すり、豪快に笑った。わたしがまるでツンドラ候の子分にでもなったような口ぶりだけど…… 反駁するのは面倒だし、この人には何を言っても無駄だろう。
宮殿の大広間では、既に何人かのメンバーが先に来て談笑していた。入ってきたのがわたしだけであれば、いつものように、冷ややかな視線をわたしに浴びせるだろう。しかし今日はツンドラ候がメインということで、その場にいたメンバーは立ち上がり、うやうやしく一礼した。
指定された席に座り、プチドラを膝の上に乗せて待っていると、メンバーの最後に、帝国宰相とドラゴニア候が連れ立って姿を見せた。
最終の実行委員会は、例によって、帝国宰相から、
「諸君、このたびは、長い期間にわたり、100年ごとに一度の由緒ある記念行事、帝国建国500年祭のため、様々な議論や貴重な意見を……(以下、略)……」
内容はないが時間のかかる挨拶が終わると、企画立案や警備などのそれぞれの部門の責任者から、「すべて順調に進んでおり、何ら問題がない」旨の現状報告があった。そして最後に、帝国宰相から形だけの締めくくりの挨拶があり、実行委員会は終了。
ツンドラ候は、なんだか物足りなさそうに、
「これで終わりかよ。なんだか、こう…… もう少し、血がたぎるような熱い議論を予想してたのだがな」
「今日は最後ですから、シャンシャンと終わりますよ」
「う~ん、そんなもんかなあ」
納得がいかないようだ。それなら代理を頼まないで、最初から自分で会議に出ていればよかったのに……
そうこうしているうちに、帝国宰相がドラゴニア候を伴ってやって来て、
「ウェルシー伯、少々、世間話でもどうかな? いや、顔を合わせてゆっくり話をする機会が、なかなかなかったものだからな」




