ダーク・エルフの狙い
わたしは部屋のベッドの上に、ごろりと寝転がった。プチドラは傍らから、わたしの顔をしげしげと見つめ、
「ほかに何か分からないことはある?」
「う~ん…… 一杯あるけど、やめとく。鬱になりそうだから」
こんな陰々滅々とした話なら、きかなかった方がよかったかもしれない。今になって、ちょっぴり後悔。
とりあえず、今日はこのまま寝ようかしら……
目を閉じてしばらくすると、チャリン、チャリーンと、貨幣と貨幣がぶつかり合うような音が聞こえてくる。プチドラが金貨で遊んでいるのだろう。ベッドの下には、賃料の金貨が入った袋がいくつか転がっていたはずだ。われながら無用心な感じもしないではないが、部屋にはカギを幾つも付けているし、金庫を作って隠したり国に輸送するのは面倒だから。
でも、賃料といえば、確か……
「あっ! 忘れてた!!」
わたしは、ふと、大切なことを思い出し、飛び起きた。そしてプチドラを抱き、「開かずの間」に向かう。プチドラは目を白黒させて、
「えっ!? マスター、一体どうしたの?」
「今日は集金日よ。地下室まで取立てに行かないと……」
このところ、だんだんと本物の守銭奴あるいは吝嗇家に近づいていくような気がしてならない。そうならないように努力はしているが、こればかりは、どうにも……
屋敷の地下では、クラウディアが袋に金貨を詰めて待っていた。傷は癒え、体力もすっかり回復し、2、3日前から通常業務(?)に復帰している。顔色はよく、二の腕のアザミの刺青も、心なしか、鮮やかに映る。
クラウディアはニッコリと袋を差し出し、
「これが今回の分の家賃です。念のため、ご確認を」
「いいよ。いつものことだし」
いくらわたしでも、他人の見ている前で金貨を数えるほど悪趣味ではない。賃料を受け取ると、一応これで、用事は終了。でも、せっかく足を運んだのだから、
「クラウディア、ところで、この前にあなたが警備兵に追われていたことなんだけど……」
「申し訳ありませんが、それはちょっと…… 部外者には秘密という扱いになっていますから」
「単刀直入にきくけど、もしかして、帝国政府を転覆する前提として、『すべてのエルフの母』を救出するため?」
「えっ!? い、いえ、それは……」
図星のようだ。クラウディアは平静を装ってはいるが、表情には明らかに狼狽の色が出ている(いわゆる「顔に書いてある」とは、こういう状態をいうのだろう)。
「えっ~と、はい…… とにかく、言えないので」
「秘密なら仕方がないわね。今日は引き揚げるわ」
わたしはプチドラを抱き上げ、金貨の入った袋を持って地下室を出た。プチドラは、何か期待するような目で、わたしを見上げていた。




