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ザ☆旅行記Ⅴ ダーク・エルフ  作者: 小宮登志子
第4章 真実の歴史
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真の帝国成立史4

 ヒューマンは三項目の条件でエルフと和解し、ひとまず危機を脱することができた。エルフがダーク・エルフの動きを抑えた(ただし、もともと仲間同士ということで、実際に戦闘となることはほとんどなかった)ことに加え、ダーク・エルフも「すべてのエルフの母」に深く敬意を払っていたことが大きい。ダーク・エルフは「すべてのエルフの母」の身を案じ、ヒューマンに対して大々的に攻勢に出ることができなくなった(この後はゲリラ的な活動を続けることになる)。こうして、ヒューマンの反乱に端を発した混乱は終息し、ともかくも平和が(これ以上ないくらいの「悪しき平和」が)訪れたかに見えた。

 ところが…… 今度は、世界の覇権をめぐって、騒乱が巻き起こった。以前は、強力な魔力を持つエルフが権威も権力も実力も兼ね備え、社会の頂点に君臨していたからこそ、ヒューマン、ドワーフ、オーク、ゴブリン、オーガー、トロールなどの多種多様な種族が共存する社会を形成することができた。エルフの支配が終焉を迎えることにより、この世界は絶対的な指導者を失ったモザイク国家のごとく、各種族や各地域の武装勢力の間で、血で血を洗う抗争が始まったのだった。


 初代皇帝は、当時、「すべてのエルフの母」を封じ込めた施設の管理責任者兼守備隊長であった(~に過ぎなかったとも言える)が、ある日、大河の畔で釣りをしている時、(今まで見たこともない七色に輝く魚を釣り上げたかどうかはともかく)一つのアイデアが浮かんだ。

「そうだ! よくよく考えてみれば、今現在、「すべてのエルフの母」を手中にしているこの俺こそ、王者に一番近い男じゃないか!!」

 初代皇帝は、自らが所属する武装組織の長を暗殺して実権を握ると、手紙を書き始めた。それはエルフの代表者宛で、内容は、①今後、ヒューマンとエルフの友好関係を、一層、確かなものとしたい、②そのために、エルフのうちで一番美しい娘を妻としていただきたい、③自分の天下統一事業に全面的に協力してもらいたい、④もし断ったら、どうなるか分かってるだろうな、という、極めて破廉恥なものだった。しかし、要求がいかに理不尽でハチャメチャなものであっても、エルフには他に選択肢がなく、結局、それらをすべて受諾し、エルフのうちで一番美しい娘、エマを差し出した。


 こうして、エルフの助力を得た初代皇帝の快進撃が始まった。反対勢力をことごとく打ち破り、世界の大部分を支配、そして、ダーク・エルフ、オーク、ゴブリン、オーガー、トロールなどに「混沌の勢力」というレッテルを貼りつけ、辺境地帯に追い払った。なお、ドワーフは、当時、多くの金山や銀山を勢力下に置き、戦費の大部分を負担していた関係で、初代皇帝の同盟者の地位にあった。

 初代皇帝は、この時になってようやく正式に即位し、都を帝都に定め(名前はそのままだけど)、建国の功臣や一族を各地に封じた。以来、500年にわたり、帝位は初代皇帝の直系の子孫に代々受け継がれている。

 真の歴史はいわゆる「黒歴史」として封印あるいは抹消され、代わりに「正史」が捏造された。ヒューマンの間でこのことを知っているのは、皇帝、帝国宰相、魔法アカデミーの重鎮などのごく少数であり、ほとんどの人々は、人工的に作られた「正史」を真実と信じている。


 以上、真の帝国成立史である。

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