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ザ☆旅行記Ⅴ ダーク・エルフ  作者: 小宮登志子
第4章 真実の歴史
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真の帝国成立史1

 暗黒の空間に現れたスクリーンに映っていたものは、とある物語だった。神がかり行者とプチドラによれば、その物語こそ、この世界の本当の歴史だという。その内容を要約して次に示そう。すなわち、真の帝国成立史。


 原初の世界は極めて高度な魔法によって支配されていた。魔法が力であり正義。その魔法を自由自在に扱うことのできる種族、つまりエルフが、ヒューマン、ドワーフ、オーク、ゴブリン、オーガー、トロールなどのヒューマノイドの頂点に君臨し、盟友のドラゴンとともに、世界を支配していた。

 エルフの支配は人間的な慈愛に満ちたものだった。自らの絶大な魔力を利用し、未開の地の開墾や大規模な灌漑事業等を行い、ヒューマンに農耕を、ドワーフに採掘を、オーガーやトロールなどには運搬作業や土木工事等の肉体労働を教えた。また、余剰生産物を税として徴収して必要なところに配給する再分配制度を構築し、老人や傷病者でも安心して生活できるよう、さまざまな社会保障制度を作り上げた。

 原初の世界は、生きとし生きるものに安寧と幸福が約束された理想郷。誰であれ(種族は関係なく)、原始共産主義的に自らの能力に応じて働き、ほしい時にほしい物を手に入れることができる世界だった。


 しかし、年月を経るにつれ、エルフの支配は揺らいでゆく。権力は腐敗するのが世の習い。それが絶対的なものであれば、なおさらのことだ。ただし、これはあくまでも一般論としての話。実は、腐敗し、徹底的に堕落したのは、絶対的支配者のエルフではなく、ヒューマン、ドワーフ等々の被支配階級だった。

 エルフの統治下において、農村や漁村の生産力や一人当たり生産性は大幅に向上していった。農村で過剰となった人口は、やがて都市を形成し、都市では手工業や飲食業やサービス業などの新たな産業、芝居や演劇などの娯楽が生まれた。時代は大きな転換点を迎えつつあった。

 しかし、そのような時代にあっても、依然としてエルフが一切の政治的権力を独占し、生産管理や生産物の分配などは、すべてエルフの指導により行われていた。この政治的権力の独占が、エルフの支配が崩壊する遠因となる。


 被支配階級のうち、一番の働き者はヒューマンだった。ヒューマンは、地方では農耕や牧畜に、都市では工業やサービス業に従事して勤勉に働き、GDPの半分以上を稼ぎ出していた。他方、ゴブリン、オーガー、トロールなど(現在に言う「混沌の勢力」)は、(ヒューマンから見れば、非常な)怠け者であり、その労働生産性は極めて低かった。もし、「能力に応じて、必要に応じて」ではなく、「働かざる者、食うべからず」の原則を確立していれば、展開は違ったかもしれない。しかし、当時の社会保障制度は極めて充実しており、申請さえすれば、働かなくてもぬくぬくと生活することができた。

 そして、いつしか、ヒューマンの間に、「自分たちは、怠け者のゴブリンやオーガーやトロールどものせいで、余分な労働を強いられている、損をしている。やつらがいなければ、もっと豊かな暮らしができるのに、誰がこんな気の狂ったような分配制度を考え出したんだ」という、危ない思想が芽生えた。

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