ダーク・エルフの魔法
屋敷に戻ると、すぐにクラウディアをわたしの部屋のベッドに寝かせ、地下にいるダーク・エルフに知らせた。リーダーのガイウスは血相を変え、数人の部下を従えて階段を駆け上がり、使用人に目撃されるのも構わずに、ダッシュでわたしの部屋に駆け込んだ。
「大丈夫か、クラウディア!」
クラウディアはベッドから体を起こし、
「ええ、なんとか……」
「いいから、おまえはじっとして、寝ていろ! 誰か、手当てを!!」
すると、部下の一人がクラウディアに近寄り、傷口に手をかざし、何やらブツブツとつぶやいた。傷口がみるみるふさがっていく。治癒魔法だろう。だったら、最初からプチドラが魔法で治療すればよかったのではないか。わたしはプチドラを抱き上げ、しげしげと見つめた。
プチドラはその意図を察したのか、
「治癒魔法は専門外だからね。間違うと逆効果になったりするから、まずいんだ」
なるほど、魔法にも専門分野が分かれているらしい。
なお、この部分におけるダーク・エルフ同士の会話は、その場では「◇$●%▽§□」など意味不明、後からプチドラに翻訳してもらったものだ。
治療が終わると、緊張から解き放たれて疲れが一気にふき出したのか、クラウディアは、すやすやと眠り始めた。
ガイウスはホッとした顔で、わたしの方に向き直り、
「大切な仲間を救ってくれたんだね。なんと礼を言っていいか……」
「礼は言ってもらわなくても構わないけど、あなたたち、一体、どんな活動をしているの? 警備兵に追われるくらいだから、相当危なそうなことは分かるけど……」
「悪いが、具体的なことは言えない。他のことならともかく、秘密事項なのでね」
「まあ、いいわ。誰にでも秘密の一つや二つ、いや、もっと……でも、それはそれとして、クラウディアは体力が回復するまで、2、3日、ここで休んでいけばいいわよ」
「ありがたい。実は、地下にはまともなベッドがなかったのだ」
礼を言われるほどのことではないだろう。わたし的には、クラウディアがわたしの部屋にいる間、あわよくばその秘密とやらを聞き出せるかもしれないと、密かに期待感を抱いていたりもする。
ただ、そのことよりも、緊急の課題として、
「あなたたちが地下から上がってきた時に、大勢の使用人に姿を見られてるけど、どうするの?」
「問題ない。我々が責任を持って解決するから」
次の日になると、御者を含めた使用人の、この事件に関する記憶は、きれいさっぱりなくなっていた。リーダーのガイウスによれば、魔法で記憶を完全に(より強力な魔法でも再生不可能なくらいに)消し去ったとのこと。




