検問
警備兵の前まで馬車がさしかかると、
「停まれ! 我々はドラゴニア候の騎士団である」
案の定、ガラの(加えて頭も)悪そうな警備兵に停止を命ぜられ、馬車はあっという間に取り囲まれてしまった。わたしは窓から顔を出し、
「どきなさい。あんたたち、邪魔よ。たかだか騎士の分際で、いい度胸ね。わたしを誰だと思ってるの!?」
「な、なにぃ! 我々はドラゴニア候に仕える者だぞ。我々に逆らうということは……」
「主人が誰であれ自慢になりはしないわ。それに、あんたたち、本当は、騎士に更に仕える下っ端役人でしょ。犬っころの分際で頭が高いわ。わたしに話があるなら、それなりの者を出しなさい。そうでなければ、踏み潰して通るまでよ」
「なにぃ、そんなことを言っていると…… えっ!? あっ、あれっ!?」
警備兵は、言いかけると、馬車に描かれた紋章(ちなみに、紋章は貴族の特権)に気付いたのだろう、激しく狼狽し、
「わっ、分かりました。しばらくお待ちを!」
と、恐縮して駆け足で走り去った。今まで金持ちの町人の馬車と思っていたのだろうか。気付くのが遅すぎる。やはり頭は良くなさそうだ。でも、「少し」とは、どの程度だろう。クラウディアの傷の具合もある。長い時間、逗留していられない。場合によってはプチドラの隻眼の黒龍モードで一網打尽に。騎士本人に怪我をさせるのでなければ、ギリギリ許容限度内か……
しばらく待っていると、年配の男が警備兵に案内され、ひょこひょこと歩いてきた。
「申し訳ございません。伯爵様の馬車がこんな所を通り掛かるとは思わず、とんだ御無礼をいたしましたですな」
「あなたが責任者?」
「いえ、責任者ではなく、現場監督といったところでしょうか。ドラゴニア候に仕えるレッドボード家に、武門の長として仕えてございまして、身分不相応なのは御容赦いただきたく……」
「なんでもいいわ。とにかく、こんなところで検問って、一体、どういうこと?」
「はい、実は、先ほど、なんといいますか、具体的には、その……一言で言えば、『怪しい集団』と言う以外ないのですが、その集団が何やら不穏な行動をいたしておりましてな……」
ひどく持って回った言い方だ。こちらは急いでいるのだ。聞いているとイライラする。
「わたしには関係のないことよ。どきなさい。邪魔よ」
「いえ、そういうわけにはいかないのでございます。帝都の警備が今の我々の仕事でございまして、したがって、その仕事を遂行、つまり使命を果たすためには……」
「だから、何が言いたいの?」
「要するに、その、馬車の中を改めさせていただかないことには……」
最初にひと言、そう言えばよかったのに、長々と要領を得ない受け答えを続けるなんて、本当に、時間の無駄。




